#望まぬ再会 2


「なあ、お菓子は好きか?」


 少女は不思議なものを見るような目をユリアに向ける。そこにはまだ若干の警戒の色が窺えた。

 人と話すことは得意ではないが、ユリアは利用できるものをすべて駆使して、少女の警戒を解こうとした。


「キャンディとか……ほら、少しくらいなら、私のをあげよう。食べるか?」


 ユリアがコートのポケットから取り出したキャンディの包みを、少女は鼻をすすりながら受け取った。


「ありがと……」


「まだあるぞ」


 そう言ってユリアは、反対側のポケットからチョコレートバーを取り出した。


「それとも、こっちのほうが良いか?」


 さらにべつのポケットから、うす布にくるめた状態のビスケットやクラッカーを、ほかにも清涼感のある香料を含んだガムまで差し出すと、これには子どものほうもびっくりして、半口を開けてしまった。


「あとはこれだ。ハーブクッキーに、フィナンシェ、表面に砂糖をまぶした乾燥果物……好きなのを選ぶと良い。それとも全部か?」


 コートの至るところに忍ばせたお菓子たちを、ユリアは手品でもしているみたいに次から次へと引っ張り出す。


 甘いものが好物なユリアは、普段からお菓子の類いを携帯している。だが今回は、ルグテンからエマランサへの遠征ということもあり、いつもより多めにお菓子を仕込んでいたのだ。

 それが思わぬところで功を奏した。


「あとは、そうだな……これは──あっ……!」


 妙に勢いづいたユリアが胸ポケットから最後に取り出したのは、特殊な空薬莢だった。彼女がいま肩にかけている散弾銃とも口径の合わない大きめなものである。

 不思議な模様が刻まれたその空薬莢を、ユリアはそっと元あった場所へとしまい直す。


「それはなあに?」


 目ざとく気づいた少女が聞く。


「悪いがこれは食べ物じゃない。私の大切なお守りだ……。ところで、お菓子は足りるか?」


「うん、ありがと。でも、こんなに食べられないよ」


 謙虚な少女はキャンディを数個受け取ると、残りはすべてユリアに返した。

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