【1章 残像】

#望まぬ再会

#望まぬ再会 1


 エマランサは独自の魔法技術によって発展を遂げた国家である。だがエマランサが魔法の国と認知されるようになったのは、比較的最近のことだった。


 今からおよそ五十年前まで、エマランサはルグテンの属国であった。その後の独立戦争により勝利を収め、ルグテンから独立を果たしたことで、周辺諸国に魔法の有用性を証明したのだ。


 エマランサの“魔法”と、ルグテンの“魔術”……どちらも似た超常的な事象のようにも思えるが、実際には異なる。


 ルグテンの“魔術”は旧文明の遺物であると同時に、限られた一部の人間のみが行使できる特権であったのに対して、エマランサの“魔法”は、訓練をすれば、身分や性別、年齢に関係なく誰でも扱えるものとして、国内で普及した。軍事や国防以外にも、産業や娯楽など、市民の日常にも浸透した身近な存在なのだ。



 魔法を原動力に駆動する列車が、エマランサで最大級の規模を誇るグランドクロス駅に到着した。

 列車が汽笛を鳴らすと、蒸気機関車の煙突に相当する部分から、青く輝く魔力の粒子が大量に噴出された。


 降車した大勢の乗客が、ホームを往来する人々と合流、入り乱れて、構内は非常に雑然とした雰囲気に包まれる。


 眼前で止めどなく形を変化させる人の波に圧倒されながら、ユリアは呆然と立ち尽くしていた。


「まずいな……完全に迷子だ……」


 ユリアは表情一つ変えずに、真顔で自身の置かれた状況を口にした。


「この歳で迷子になるか、普通?」


 ほんの一瞬目を離した隙に、ついさっきまですぐ前を歩いていたはずのエドガーたちを見失ってしまったのだ。


 また、ユリアのすぐとなりからは、構内に反響する喧騒に負けないくらいに、わんわんと泣きじゃくる少女の声がした。


 きっと少女も迷子なのだろう。さっきから誰かを探すみたいに、しきりに周囲を確認していた。

 だけど通行人は皆、そんな少女には無関心だ。心配して声をかけることもなければ、救いの手を差し伸べることもない。まるでそこに、泣いている少女など存在しないかのように、足早に去っていってしまうのだ。


 最初こそユリアも無関心を貫いていたが、段々といたたまれない気持ちになってきて、彼女は少女に声をかけた。

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