#春の舞、季節は移ろう…… 13
「まったく、とんだ災難な結婚式でしたね……」
ミミは自分の腕をさすりながらつぶやいた。
「ある意味、今日は忘れられない日になりそうだな、こりゃあ……」
エドガーは咥えた煙草に火をつけ、一服してから返す。
「今日っていうか、もう昨日の話になるんですけど……」
そう言ってミミの視線は、東の空に昇りつつある太陽に向けられる。
「そもそも、何者なんですか? 村を襲った人たちって?」
討伐に参加していない彼女が質問した。
彼女の発言で思い出したユリアが、上着のポケットから、紐つきの磨かれた赤い石を取り出した。
「エドガー、あいつら、こんなものを持っていた」
ユリアが差し出したのは、襲撃者たちが持っていた“
「こいつは……魔術の触媒か?」
「しかもこれ、教団製じゃない。エマランサ製ですよ」
エドガーに続き、横から顔を覗かせたミミも言った。
「エマランサ……神秘と魔法の国か……」
と、ユリアが独りごちる。
「ここから西にある森を抜ければ、そこはエマランサとの国境でしたね。なら、食べるものに困った賊たちが、こっちに流れてきたとか?」
だがミミの推測を、エドガーは含みを込めた言葉で反論した。
「あるいは、明確な敵意と目的を持って他国の村を襲撃したか……」
「まさか、エマランサ側の意図的な侵略行為だって言いたいんですか?」
思わず大きな声を出してしまったミミは、周囲にいる村人を気にしながら、すぐに口もとを押さえる素振りをした。
「けど、なんでそんな挑発行為を?」
「なあミミ、この村に来て、ほかのルグテンの村とは違う点に気づかないか? たとえば建物の装飾とか、村人の言葉のなまりとか」
エドガーの問いかけに、ミミは周囲を見まわした。だけど、見えるものは焼け跡ばかりだ。だから、脳裏に記憶したかつての村の様子を想起する。
「言われてみれば、披露宴で出てきたご飯も、新郎新婦に百合の花弁をかけて祝うやり方も、全部エマランサの文化ですね」
エドガーは肯定するように頷いて見せる。
「なぜだと思う?」
ミミは、う~んと低くうなりを上げながら、意見を絞り出す。
「エマランサとの国境が近いから?」
「惜しい。かつてこの村は、エマランサの土地だったからさ」
ルグテンやエマランサを含む北方の土地では、古くから幾度にも渡って戦争が繰り広げられてきた。そのたびに北方の地図は変化し続け、各国の国境線もまた目まぐるしく変化していった。
そのなかでも、ここら一帯の土地の所有権は複雑である。この村もかつてはエマランサの土地にあったのだが、戦争に敗北しルグテンの属国となった際に多くの国土を奪われたのだ。
それからさらにあとの時代、エマランサがルグテンから独立を果たしたあとも、両国の国境線に変動はなかった。エマランサの文化圏の村がルグテン領土にあるのは、それが理由だった。
エドガーの話を聞いてユリアも、村を襲った彼らの目的が見えてきた。
「つまり、この村を含めたここらの土地は、エマランサのものだって奴らは主張したかった、だから連中は火を放ったのか?」
「動機としては十分だろう」
だが、と言って、エドガーはさらに続けた。
「これはあまり大っぴらには言えない話なんだが……、最近エマランサとの国境付近では、この村のような事例が立て続けに発生しているんだ。他にも、ここらで商売をするキャラバンもその被害を受けている」
隊長のする初耳の話に、ユリアとミミは顔を見合わせた。
「他にも、エマランサからの襲撃者がいるってことですか?」
「それだけじゃない。エマランサ側でも、ここと似たような被害が発生しているらしくてな……なんだか匂わないか?」
目には見えない水面の下で、なにかよからぬことが起きているような、嫌な胸騒ぎをユリアは覚えた。
「これは俺の憶測になるんだが、この一連の騒動は、一部の過激な思想の者たちや、自称愛国者といった連中による突発的な犯行ではなく、もっと大きな影響力を持った者たちが扇動した、計画的な犯行だと思っている」
そこでユリアは、襲撃者の一人が言っていた、“ある男”に指示を受けたという内容を思い出す。
「ルグテン、エマランサ間で、国どうしの対立感情を煽って、得をする第三者がいるのか……」
「そうだ」
ユリアのつぶやきに、エドガーは肯定を示した。
「そんな、いったい誰がそんなこと──あっ!?」
ミミも、話しているうちに何か思い当たることがあったのだろう。彼女はハッとした顔をする。
おそらく彼女の脳裏には、今ユリアが浮かべたのと同じ組織の名前が出てきたはずだ。
「【
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