#望まぬ再会 6


「ですが……」


 と、一転して浮かない顔をしながら、ヴィジンは眼鏡を押し上げる。


「いちじくに限った話ではないのですが、年々、作物の収穫量が減っていまして……」


「不作? 天候が良くないとか?」


 エドガーの推察に対して、ヴィジンは首を振って否定する。


「【月耀結晶】です……」


 聞き慣れない単語だった。


「月耀結晶は、このエマランサでのみ採れる資源。魔力が結晶化したもの。いわば化石燃料です。魔法の行使に必須の素材であるのはもちろん、魔法の触媒に、魔導列車の部品、この国の産業を支える工業設備の大部分にも使用されています。他にも街なかの街灯や噴水、インフラ整備、空飛ぶほうき、時計や蓄音機、食料の保存や加熱など、人々の日常生活の至るところで、月耀結晶は利用されているのです」


「へぇー、スゲー万能じゃん!」


 オリバーが好奇の反応を示した。


「そのなんたら結晶ってのがありゃあ、未来は安泰ってことだろ? エマランサに移住しよっかな、俺」


「それで、その魔力の結晶と、作物の不作の話がどうやって繋がるんですか?」


 聞いたのはミミである。


「もともとここら辺は、岩場が多く、土地も痩せ、農耕には適していません。ですがその代わりに、月耀結晶を含めた採掘資源が豊富に眠っておりました」


「んの割には、木がいっぱい生えてて田舎くせ──自然豊かな景色が多いじゃねーか?」


 危うく失言しかけながらも、オリバーが反論した。


 一年を通して安定した気候が特徴のエマランサは、北と南で異なる風土的特色を有していた。

 南部に横たわる高原地帯は、どこまでも広がる青い空の下、雄大で解放的、珍しい生物や魔物、希少な植物の宝庫である。それは、南の国境に面する国家モロコシアから吹く温暖な風や気候の影響を大きく受けているからだ。


 一方で、現在ユリアたちがいる北部は、北方最大の大国、極寒のキノアと面していることもあり、暗くて陰鬱とした雰囲気がどこまでもつきまとう土地だ。

 のっぺりとした灰色の雲が一面を覆う空模様。ごつごつとした岩場が目立つ深い森。そして、ぬかるんだ地面。

 あまり長居したいとは思わない場所だ。


「それは、地中に埋蔵された月耀結晶が、土や空気中に含まれる魔力を活性化させて、植物の成長を促していたからなのです」


「つまり、資源の過剰採掘が問題……ってことですか?」


 ひと足先に結論に至ったエドガーが声を発する。


「はい……」


 と、窓の外の景色がばったりと変化した。まるで境界線でも引かれたみたいに、それまで続いていた緑豊かな針葉樹林から、立ち枯れた木々が並ぶ殺風景のなかへと突入したのだ。

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