#春の舞、季節は移ろう…… 8


 見える限りの人数は五人。身なりから判断しても、連中は、この国に掃いて捨てるほどいるつまらない無法者たちだ。

 だが彼らには、ユリアの知る無法者たちとは決定的な違いが一つだけあった。


 男たちの手にそれぞれ握られているのは“振り子ペンデュラム”だろうか。その“振り子”が赤く発光した次の瞬間、無法者の手から、炎の渦が解き放たれた。魔術だとすぐにわかった。


「見てくれよおかしら、こいつはすごいぞぉ! これで俺も、魔法使いの仲間入りだぁ!」


「無駄口を叩くな! 目に映るものはすべて燃やせ。だが人間は殺すな、奴らには生き証人になってもらう必要があるからな」


 襲撃者のやり取りを聞きながら、ユリアはおもむろに路地から出ていき、彼らと対峙した。

 男たちの間にも緊張が走り、彼女を取り囲むように配置について臨戦態勢をとる。


 背後で、焼けた建物の一部が崩れる音がした。


「何者だ?」


 襲撃者の頭がユリアに問うた。


「お前たちこそ何者だ? 村を襲う目的はなんだ?」


 すると襲撃者の頭は、ユリアのすぐそばの地面に、拳銃を一発撃ち込んで威かくした。


「質問に質問で返すなよ。まあいい……さっさと失せろ、そしたら命だけは見逃してやる」


 だが、ユリアも強気な態度を崩さずに続けた。


「お前たちが持っているのは魔術の触媒だな。教団が厳重に管理して、一般には出回らない代物をどこで手に入れた?」


「男から譲り受けたのさ」


 声は正面ではなく、横からした。


「男?」


「あぁ、一緒に金もたんまりもらったよ。そして、この村を燃やせと指示された」


 そう答えたのは、先ほど魔術を放って浮かれていた頭の弱そうな男だ。


「黙ってろ! 余計なことを喋るな!」


 案の定男は、かしらに注意された。


「で、でもよぉ……うぅっ、悪かったよ、お頭ぁ……」


「ほぅ、なら、お前たちの背後には、べつの何者かがついているってことか?」


 ユリアは、頭の弱そうな男に視線を送りながら聞く。すると、男は生き生きしながら話し始めた。


「そのとおりさ。俺たちは“あの男”の言いつけを守った。目撃者は生かして、魔法の痕跡が残るように注意もした。村を燃やすのは、俺たちがエマラ──」


 ところが、一発の銃声が男の言葉を遮った。


 襲撃者の頭が撃った弾丸が、みごと男の眉間に命中し、彼の息の根を止めたからだ。これ以上秘密を漏らされる前にした、荒々しい措置だった。


 襲撃者の頭がため息を吐く。


「まったく、俺が言ったときに黙って逃げていれば、見逃してやったものを……」


 襲撃者の頭の視線がユリアへと向けられた。そして、彼女の胸もとにある教団の紋章を視認するなり、男は細くて小さな目をさらに細めた。


「貴様、レガシィ教団の人間だったのか……ならちょうど良い、お前は知りすぎた。この村もろとも消し炭にしてくれる!」


 襲撃者たちは、ユリアのことを本格的に敵と見定め、排除するつもりらしい。ある者は剣を構え、またある者は拳銃の銃口をユリアへと向けた。


「魔導装置の扱い方を教わらなかったのか?」


 ユリアは腰の軍刀サーベルを抜きながら話し続ける。


「一つ、人に向けて放つな。二つ、建造物は壊すな。三つ、教団の許可がない者の使用は禁止とする。

 おっと、これは驚いた。お前たちは見事に全部違反しているな」


 襲撃者の頭に向けた軍刀の切っ先は鋭く、わずかに反りのある細長い刀身と刃は、持ち主に似た冷ややかな印象の銀色をしている。だがそれとは対照的に、柄頭にはめ込まれたうるわしい翠玉は、生命力にあふれる温かな色味を帯びてもいた。


「俺たちが、学があるような連中に見えるか?」


 人数で勝っているためか、襲撃者たちはユリアに対してまだ強気な態度を保っていた。


「なら、お前たちが犯した過ちを、身をもって教えてやる」

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