#春の舞、季節は移ろう…… 6
「なあオリバー、言うのが遅くなった……結婚、おめでとう……」
「おっ……おう……」
慣れない調子で言われたユリアの祝福の言葉に、オリバーが驚く顔をする。
「な、なんだ、不服か?」
「あんたってさ、いっつも余裕のない顔してて、自分の事情しか考えてないもんだと思ってたけど、案外そうでもないんだな」
「失礼な! 私だって、お祝いの言葉くらいかけられる……!」
ユリアは唇を尖らせた。
「意外といい奴じゃねーか! 二年間同じチーム組んでて、今日はじめてそう思ったぜ!」
自分の性格に難があることは、ユリア自身も自覚していたが、それでも面と向かって言われると、心にくるものがあった。
オリバーの左薬指に輝く輪っかに、彼女は自然と目が吸い寄せられる。
「伴侶を悲しませることだけはやめろよ」
「どこから目線の発言だよ……」
「私たちの仕事は、つねに死と隣り合わせだ。だけど、くだらない理由で死ぬこともないだろう」
人は、帰る場所があるだけで、生きる理由を見いだせるものだ。しかし同時に、愛する人に先立たれ、独り残された者が、どれだけの苦痛と孤独に苛まれるのかも、ユリアは痛いほど知っていた。
だからこそ、オリバーは死んではいけなかった。教団から課せられた任務の遂行よりも、生きて愛する人のもとへと、無事帰還することを優先してもらいたかったのだ。
「はいはい、助言どうも……」
ユリアはいつだって言葉足らずだ。ゆえにオリバーが、彼女の言葉の意図を、どれだけ汲んでくれたのかはわからない。
だが、できるだけユリアも、彼のことを守りつつ、今後の任務に挑もうと思ったのだった。
しばしの沈黙。
ユリアは黙々と手もとの料理を口に運び続けているが、オリバーは、早くも暇を持て余していた。
「あんた、あらためて思ったけど、すげー食うよな?」
「そうだな」
「そんなに肉が好きなのか?」
「そうだな」
「野菜は? 食わねえのか?」
「そうだな」
「おい!」
「……? どうした?」
ユリアが顔を上げると、難しい顔をしたオリバーがこちらを睨んでいる。
「さっきから聞いてりゃあ、そうだな……ばっかじゃねえか!」
「そうだな……」
ユリアが、うかつにも、また同じ返事をしたばっかりに、オリバーは
「あーっ! つまんねぇ! これじゃあ、会話になんねーっつーの!」
「お、怒るなよ……」
だったらべつの奴のところに行けば良いだろうに、とユリアは内心思わなくもない。
「いいや、キレちまったね! こうなりゃあこの俺が、お前に直々に、立派な
「お前が淑女のなんだって? おまえの会話はいつだって、最終的には短気を起こして、肉体言語にたどり着くだろ……」
「うるせぇやい! いっつも隅っこでこそこそして、指をくわえながら人気者を眺めてるような奴には言われたかないね!」
オリバーは鼻息を荒くしながらまくし立てた。
「大変だ!」
血相を変えた招待客の一人が、ほかの招待客たちとぶつかりながら、慌てた様子で納屋のなかに入ってきた。
ユリアたちはもちろん、周囲の招待客たちも、不穏な空気をはらませながら彼に注目した。
「落ち着けヤード、いったい何の騒ぎだ?」
オリバーが声をかけた。
「村が……村が燃えてる……」
「なんだって?」
「賊が襲ってきたんだよ!」
夢心地だったオリバーの披露宴は、思わぬ形で終わりの時を告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます