#春の舞、季節は移ろう…… 4



 太陽が西に傾き、地上に長く伸びた影を作りだす時刻、宴はますますの盛況をみせていた。


 大きな納屋を解放して、そこにテーブルや椅子を並べることで、大人数を収容できる即席の宴会場が設けられた。


 卓上には、村の料理自慢たちが総出で作った、肉や魚をはじめとした豪勢な料理がずらりと並び、そうしている間にも、続々と新たな料理が運ばれてくる。さらに、蔵に大切に保管していた極上の酒類も、惜しげもなく振る舞われた。


 納屋の外では、村人たちの愉快な歌と踊りが絶えず響き渡り、また、この日のために雇われた曲芸師たちが、火を用いた奇術や、類まれな身体能力を生かして危険な妙技を披露して、観る者たちをあっと沸かせていたりもした。

 ほかにも、敷地の一角では、カード遊戯で賭け事に興じる者たちもいるし、うるわしの村娘や、招待客を口説こうとする軟派な輩までいる始末。


 この場にいる誰もが浮かれていた。争いや不安とは無縁で、とにかくにぎやかで、なんでもありの空間だった。

 どんな人格の持ち主であれ、人間とは、つくづく楽しく騒ぐことが好きなのだろう。披露宴とは、騒ぐための口実には申し分ないなのだ。


 祝賀会に残ったはいいものの、ユリアは依然として自分の居場所を見つけられずにいた。


 天女のような外見をしたミミは周囲から注目の的だし、部隊長のエドガーは酒豪なだけあって、男たちの間で飲み比べで競いあっていた。


 ユリアができることと言えば、目立たない納屋の隅の卓に陣取り、もてなしの料理を突きながら、楽しげな他の招待客の様子を見守ることだけだった。


 こうしていると、なんだか、騎士見習い時代の集団生活を思い出す。とくべつ仲の良い知人も持たず、ただひたすらに鍛練たんれんに時間を費やした毎日。当時は、リリィの近衛騎士になることに頭がいっぱいで気にしてもいなかったが、ほかの騎士見習いたちとの交遊関係はまったくの皆無だった。

 食事時ともなれば、大抵は決まった仲間内でわいわいするのに対し、ユリアといえば、食堂の隅っこで独り黙々と食べていたものだ。


 ユリアの社交性の無さは、もしかしたら生まれつきなのかもしれない。


 ちなみにミミとオリバーは、その頃からの顔見知りだった。

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