#春の舞、季節は移ろう…… 2


 振り撒かれた白百合の花弁が、歓声とともに巻き上がり、頭上からひらひらと降り注ぐ。落ちた花弁は地面に敷き詰められ、自然とましろい絨毯じゅうたんを作っていく。


 春の午後にふさわしいほがらかな陽光の下、ルグテン西部のとある田舎の村落は、陽気な音楽と雰囲気に包まれていた。


「結婚おめでとう!」


 新たな門出を迎えた二人の男女に、来客たちが続々と祝福の言葉を投げかける。


 惜しみない拍手と歓声、有り余るほどの祝福を受け、夕焼け色をした明るい髪の青年が、照れて頭を掻きはじめた。


「いやぁ~、俺、いま世界で一番の幸せ者の自覚しかないっすわ!」


 新郎としての自覚もなさそうな、軽薄な口ぶりをする青年の名前はオリバー──レガシィ教団の騎士であり、ユリアと同じ部隊に所属する戦友だ。


 一方で、オリバーのとなりに寄り添い、純白の花嫁姿を披露する娘は、この村の出身で、特別目立つ顔立ちというわけではないものの、一生に一度の晴れ舞台に恥じない美しさをまとっている。彼女はほのかに頬を紅潮させながら、いま感じている最上の幸せを、大切に噛みしめている様子だった。


 新郎新婦を囲む人だかりには、祝賀用におめかしをしたミミの姿と、部隊長であるエドガーの姿もある。それ以外にも、二人の親族や、村の人々など、実にさまざまな人たちが新郎新婦のために駆けつけていた。


 世界が色づいて見えるとは、まさにこのことだった。会場となった邸宅前の庭は、お祝いムード一色である


 だからこそ、いまだ過去に心を囚われて、灰色の空気をまとうユリアの姿は、祝賀会場では明らかに浮いていた。

 ユリアを見る人全員が全員、怪訝そうな目を彼女に向ける。それも当然だ。こんな辛気くさい顔をした人物が、この上なくめでたい場所にいたら雰囲気が台無しになるからだ。


 それを自覚していたからこそ、彼女は人から離れた目立たない場所に、独りぽつんと立っているのだ。

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