#腐敗した心 4


 人だかりの正面には高くなった台があり、その上には、レガシィ教団のローブをまとった人物と、首に縄をかけられた男が立っていた。


 絞首台で死を目前に控えた男の顔に、ユリアは覚えがある。


「あの男、先輩が捕まえた男ですよね?」


 ミミの言葉で、ユリアも彼のことを思い出した。


 数日前のことである──


 彼は質屋を営んでいた。しかし裏では、街の安寧を脅かすテロリストたちに、匿う場所を提供していたのだ。だから彼は、ユリアたち率いる教団の騎士に拘束された。

 そして、テロリストにくみする者はどういう末路を辿ることになるのか……その見せしめのために、彼はこれから処刑されるのだ。


 まもなく絞首刑が始まろうとしている。泣いていたのは、首に縄をかけられた男の妻だとわかった。彼女の傍らには、まだ幼い娘もいた。だが状況をよく理解していないのか、娘は不思議そうに周囲をキョロキョロと見まわしている。


「清き市民の皆さん、今日、一つの正義が執行されます! 偉大なる創造神【蒼穹そうきゅう】の名の下に、悪が断罪されるのです」


 ローブ姿の人物は、眼下の民衆へ向けて高らかに宣言した。


「創造神【蒼穹】の教えに背いたこの男は、愚かにも、【惑星フラーの目覚め】に与しました。

 そうです、かの者たちは、邪悪の権化ごんげたる破滅神を狂信し、この国を分断せんとする愚者たちであります。我々レガシィ教団は、そのような存在を断固として許容しません!」


「狂信だと? おたくらレガシィ教団だって似たようなもんさ。国家権力にかまけて、異教徒を徹底的に排除して、この国を独裁しようとしている!」


 首に縄をかけられた男は、鋭く反論した。


「黙れ!」


 そばに控えた法務官に殴られ、男は注意された。


「かつての時代、神は二つで一つでありました。この世界は、終わりなき創造と破壊によって循環していたのです」


 ローブ姿の男は、教団が説く世界の成り立ちについて語りはじめた。


 創造神を賛美するレガシィ教団の掲げる真理、それは生命の循環だ。この世に生を受け、先人から託された使命を胸に抱き、それを自身に課せられた責務として遂行、そして新たな若者たちにまた使命を託し、死を迎える……。


 “生と死”、“始まりと終わり”、“創造と破壊”……その循環こそが、人間の積み重ねてきた歴史である。誇るべき美徳である。

 無限の創造の繰り返しのみでも、破壊の限りを尽くすだけでも、それは正常な世界とは言えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る