2章 ごめん 君を不幸にしてしまう、僕を許して
ーーーーーーーーーーーー今日も同じ夢を見た。
僕は、嫌な汗を流すためにシャワー浴びながら思った。こんな理不尽なことがあっていいわけがない。
この世には本当に神様とか運命とかあるかもしれないけど、僕は全力で抗ってやる。徹底的にそして無慈悲に。
僕は、今日初めてヤノを起こすために迎えに行かなかった。
このまま、ヤノと仲良く過ごせば運命様の思惑通りに、僕は死に、ヤノは生きながら、とてつもなく重い十字架を背負わされる。
そんなこと、あっていいわけがない。
なら、ヤノと仲良く登校したり下校したりしなければ、僕は事故死することなく、ヤノも罪悪感に際悩ませることもなくなるはずだ。
教室にいつもより早く着くと、教室のクラスメイトの奇異な視線を肌に感じながら席に着いた。
クラスメイトの一人が
「どうしたんだ、ホソノ?奥さん、今日は休みか?珍しいこともあるんだなぁ。」
僕は、適当にああ、と聞き流して、やはり視線は教室の入り口を見つめていた。
−ヤノは一人でちゃんと起きられるのだろか?–
−もしかすると、まだ寝ているかもしれないな–
−それとも、いつも通り来ない僕を心配していて混乱しているかも…–
ヤノと距離を取ろうとすればするほど頭はヤノのことで一杯になった。
−そして ホームルームのチャイムが鳴った–
担任のコバヤシがいつも通りにチャイムと同時に教室に入ると、すぐに、僕を目に捉えて、そして、誰も座っていないヤノの席を数秒睨んでいると
「ホソノ、ヤノは病気か何かか?」
と、感情も抑揚もない声で聞いてきた。
僕は、視線を外に向けたまま
「知りませんよ、あんなの。」
と、こちらも無感情で答えた。
その一言で、教室は一瞬にしてざわついた。
−あのおしどり夫婦が、喧嘩したんじゃないか–
−それとも、どちらかが浮気したかも–
−ええ、まじぃ–
と、あることないこと、耳に入ってきたけど僕は完全にスルーした。
サイボーグコバヤシもこれには驚いたのか、この一年で一番人間らしい、困惑した表情をみせたがすぐに
「静かに、静かに、ホームルームをはじめる。」
と、点呼を取り始めた。
その最中に教室の後ろの側のドアがそろそろ開いてヤノがほふく前進しながら入ってきた。頭は寝癖がひどくて、制服も、もう乱れていたけど、僕が今年の夏に贈った、リボンだけはしっかりと髪に留めてあった。
そして、ヤノの顔はしっかりと僕に向けていて、今にも泣きだしそうな、混乱した表情がありありと浮かんでいた。
−ヤノごめん、でも、運命に抗うには、今の僕にはこれをやらなければならないんだ–
珍しく、コバヤシはそんなヤノを見て何も言わなかった。まるで見なかったことかの様に。
ヤノは僕の隣の自分の席に着くと、小声で
「心配したんだよ、いつも迎えに来てくれるのに、今日だけは来なくて…もしかすると何かで死んじゃったんじゃないかって…」
そして、ヤノは顔を手で覆って、こらえる様に泣き出した。
「よかった、生きていてくれて、本当に本当に…」
−ヤノ、ごめん
本当は迎えに行きたかったんだ
いつも通りふざけあって登校したかったんだ
でも–
ヤノが泣き出すのを他のクラスメイトが気づくとまた、ざわつき始めた。
−ホソノが、昨日きっと手を上げたんだ–
−いや、浮気したんだ–
−ヤノちゃん、可哀そう–
と、あることないこと、またしゃべり始めた。
それにキレた、のかコバヤシが
「今日一日、私語を話す者は特別課題を出す、もし出されて、提出できなかったものは、無条件で冬休み一杯補習にする」
教室は一瞬で、ブーイングの嵐になった。
その中珍しくコバヤシが大声で
「異論は認めん!」
と一言言って教室を出て行った。
その後、女子がヤノを取り囲むように、事情聴取を始めた。
しかし、結果僕が浮気したり、手を上げたりした様子がないことがわかると、腑に落ちないかのように散っていった。
その後ヤノは
「ホソノ君どうしたの?どうして迎えに来てくれなかったの?」
僕は、外を見つめながら一言
「ヤノには関係ないだろ。」
ヤノの視線が痛いほど肌に伝わってくる。
❘僕だって、こんなことしたくないんだ。ただ病気で死ぬとかなら、まだいい。
でも、こんな未来をヤノに背負わされるわけにはいかない。
明るい彼女が闇に沈んでしまう❘
「本当にそうなの?本当に私に関係ないの?」
切実な声が耳に響く、彼女の甘く、穏やかな言葉がこれ以上ない位僕の心を揺さぶった。
「ない、本当にない」
ヤノがきっぱりとした声で
「それなら、顔をこっちに向けて話して!」
僕は、顔をヤノに向けるとやけにぼやけて見えた。
あれ、おかしい、昨日ちゃんと眼鏡拭きで眼鏡拭いたはずなんだけど
「なら、なんでホソノ君は泣いているの?」
そうか、僕はいつの間にか泣いていたんだ。
とめどなく流れる涙は、きっと今のヤノと同じ顔になっているんだろうな。
そして、僕はヤノを抱きしめながら、嗚咽を漏らすように
−ごめん、君を不幸にさせてしまう僕を許して–
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