春の章
1章 ~門出~
長い冬が終わり、徐々に大地は名残雪の合間から新たな命を芽吹いていた。空気は心なしか暖かく鮮やかで、どこまでも澄み切っていた。空からの初春の陽光は、優しく部屋に射し、新たな門出を祝福しているようだった。
僕は新しい制服に袖を通すと新たな学生生活に夢が膨らむ思いだった。新しい制服に靴、鞄、自転車全てがキラキラと輝いていつもと何か違うような気になった。 今まで、やりたくもない高校受験の辛苦を乗り越え、地元でそれなりの進学校に合格して、その登校初日が今なのだ。身支度を整え「行ってきます」と威勢よく自転車にまたがって家を出た。外の世界は、新たな季節の生の歓喜に満ち溢れていた。僕は自転車に乗りながら、初春特有の大地のにおいに、僕の人生の新たな始まりを心が躍る思いだった。
僕の住んでいるところは東北の片田舎でマックやスターバックスなんてないけど最低限のスーパーとコンビニがある田舎としては平均的な街ではないかと思う。自転車をこいでいると、時々農機具を乗せた軽トラと行違った。今まで雪で全てが閉ざされた世界がまた動き始めるのを感じる。
そう
― 始まるのだ -
僕は新たに入る学校は、昔の戦国時代にちょっとした砦の跡地に立った立地らしく、攻めてくる侍を撃退しやすいように急な坂がある。昔は侍、今では僕みたいな高校生を苦しめている。自転車を立ちながらこいで、ひぃひぃ言いながら登りながら、後これを三年も繰り返すのかと思うと最初からちょっと絶望的な気持ちになる。僕は、えい、やぁと登り終えて、駐輪場に自転車を停めると、自分の教室へと向かった。廊下を歩いていると、聞きなれた声が背中から聞こえてきた。
「おう、サカモト、おはよう。」
と、同時に背中を勢いよくバンバン叩かれた。このタイタンのような、屈強な体躯をした、筋肉漢ことタカハシは中学からなぜかクラス替えもあるはずなのに毎年同じクラスで、脳筋なのに、どうやってか、同じ高校となったのだ。
「タカハシ、おはよう。あとちょっと叩いていいけど少しは加減してくれないか、痛いんだから。」
そんな、タカハシは悪びれた様子は一切なく、何も気にも留めてないようで
「今更、何を言ってるんだ。俺たちズッ友だろ。」
と、ガハハハッとまるで、大河ドラマの戦国武将が勝ち戦に笑いが止まらないかの様な姿に、僕は完全に呆れてしまって何も言えない。そんな僕に気にも留めずに我が道を行く、タカハシは、急に真剣な表情になって、何の前振りもなく
「サカモト、一つ大きな忠告をズッ友として与える。聞く心の準備はいいか?」
僕は、今まで共に学生生活をしていたが、そんな僕が一度たりとも見たこともない、タカハシの真剣な表情に、気を引き締めて
「お、おう、どうした。」
タカハシは、廊下を歩く女生徒に向けて視線を送ると、ゆっくりと彼女たちを指して
「あそこに歩くのはなんだ?」
あそこ?歩く?何が何だか、僕は鳩が豆鉄砲を食ったように訳が分からまま、
「新しい同級生だが?」
とありきたりの事実を言ったら、タカハシは、まるで信じられないかのような表情をしながら頭を抱えて
「Nooooo!!!」
とタカハシはこの世の終わりのような叫び声をあげた後、グイグイと廊下の隅に僕を引きづって小声で
「何を言ってるんだ、サカモト、あれはJKだ。JK。大人がJKに手を出すと青少年なんたら法に触れて犯罪者になるが、俺たちは高校生だ。大人ではない。これが何か分かるか?」
と頭の悪いタカハシが(本人には自覚がないが)語りだした。その姿は、まるで偶然、世界の真理を発見した教授が、頭の悪い、まるでタカハシの様な、生徒を教えるかの如く。
「俺たちが手を出してもセーフなんだ。わかるか?所謂、ブルーオーシャンなんだよ。目の前には無限の夢が!待ってろ。俺のハーレム!」
ああ、こいつは危ない。こんな奴が社会に出たら、性犯罪者として逮捕されるのではないだろうか?友達としてタカハシの未来が危ぶまれるのは考えすぎではないだろう。それを知ってか知らずか、タカハシは
「そいえば、俺たち同じクラスだったな、とりあえず一年よろしく頼むぜ。まぁ、この腐れ縁だと三年同じだろうがな。」
と、「がっははは」と笑いながらグイグイと僕の気持ちと体をまったく考慮せずに引きずりながら、教室に入った。
僕は思わずにはいられなかった・・・そう嵐の予感を
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