今、学校の授業中で、僕はパソコンのキーボードを叩いている。もちろん僕だけじゃなく、クラスの生徒みんな、画面を見ながら黙々と指を動かしている。

 しばらくすると廊下から、何やらガヤガヤと騒ぐような声が聞こえてきた。

 そして教室のドアが開き、顔は知ってるけれど名前はわからない女の先生が、僕たちに授業をしている斎藤先生を手招きして呼んだ。

「はい」

 返事をした斎藤先生は、僕らに作業を続けるように言い、廊下へ出ていった。

「何だ? 何かあったのか?」

 誰かがそうしゃべったりして、教室内もうるさくなっていった。どうも良くないことが起きた感じだ。自分には関係がない可能性が高かったが、僕はなんとなく嫌な予感がした。

 後でわかったが、その騒ぎは黒川くんが逮捕されたという情報によるものだった。あの新聞に載った学者の発表は嘘で、なんと黒川くんがおどしてやらせたもので、それで捕まったのだ。その学者は、以前からゲームが犯罪に影響しているとの考えに疑問を呈していたらしく、だから、いくらおどされたからって中学生に言われたことを世間に発表するなんておかしいという理由から、黒川くんを利用したんじゃないかという話もあるようだ。ただ、黒川くんがおどしたのは間違いないらしい。きっと従いやすいと踏んでその人を選んだんだろう。

 発表の内容について話したとき、黒川くんはこう言っていた。


「俺は脳よりも自律神経が問題だと思っている」

「自律神経?」

「ああ。自律神経ってのは、人が活動時で興奮したりしたときに優位になる交感神経と、リラックスすると優位になる副交感神経でできている。テレビもパソコンも携帯も、そしてゲームも、ああいう画面は刺激があるから長い時間見ていると交感神経が過剰に働いて、体調が悪くなってキレやすくなったりもするんだ。会社で、仕事がパソコン中心になってから、うつ病が増えたって話もある。だから大人が子どもに長時間のゲームを禁じるのは妥当だ。だが一方で、本当にそこまで必要かというくらい次々にデジタル教材が教育現場に導入されている。まあ、今問題になってるのは脳だから、その話をするけどよ」

 黒川くんは続けた。

「いいか。大人からすれば、ゲームをしているガキなんてクソだ。でもパソコンは使いこなしてもらわなければ困る。なにせ将来の日本の経済を支える人材として必要不可欠な技能だからな。ただ、そのパソコンが、もしゲームよりも脳に悪いとしたら、果たして大人はどういう行動に出るか」

 そこで少し間を置いた。

「俺には結果は見えてるけどな」

 そして微笑んだ。

「大人の言う『子どものため』なんて言葉がいかに大噓か、はっきりするだろうよ」


 放課後、僕は靴を履き替えて、学校を出た。

 あの学者の発表から黒川くんが逮捕されるまでけっこう時間はあったが、ゲームのようにパソコンにも、使用時間など何らかの規制をしようという動きはまったくなかった。

 黒川くんは今、何を思ってるんだろう? 「ほらな。言った通りだったろ」とでも考えているのだろうか。

 ゲーム禁止まで、あと一カ月を切った。

 ゲームができなくなったら、もう何もかもどうなったっていいと、少し前まで思ってたけれど、今は違う。具体的に何をしようとか考えがあるわけじゃないが、とりあえず黒川くんのぶんもゲームを楽しみながら、黒川くんが帰ってくるのを待とうと思う。

 何だったら、怖いけれど、今から一人でゲームセンターに行ってみようか。

 そして、黒川くんと最初にやったゲームをするのもいいかもしれない。

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ゲーム 柿井優嬉 @kakiiyuki

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