「失礼します」

 黒川くんがうちにやってきた。

「いらっしゃい」

 お母さんはすごく喜んだ。黒川くんがいかにも不良という外見じゃなくて助かった。

「まさか博之が家に友達を連れてくるなんてね。小学校に入学してすぐ以来じゃないかしら。あのときは何人かのコが無理やり押しかけてきたって感じだったけど」

「いいよ、ベラベラしゃべらないで」

 僕は口を挟んだ。

「いいじゃないの。まあ、ゆっくりしていってね」

「はい」

 黒川くんは礼儀正しくしてくれた。去年は同じクラスだったけれど、お母さんは黒川くんが学校で恐れられている存在なことは知らないみたいだ。それに、黒川くんが木塚とかいう人たちをやっつけたのは、僕と一緒でゲームワールドを取られそうになってたコを助けたからで、悪い人じゃないとはっきりしたし、もう心配はないだろう。

 僕たちは早々に僕の部屋へ移動した。そこにお菓子とジュースを持ってきたお母さんは、唖然となった。

「なに、せっかく友達を連れてきたのに、またゲームなの?」

 ガックリと、わかりやすく肩を落とした。その姿がおかしくて、僕と黒川くんは目を合わせて微笑んだ。

 僕らはお互いの家や屋外など至るところでゲームを楽しむ日々を送った。


「ハー」

 黒川くんの家でゲームをやっていて、休憩していたとき、僕はため息をついた。

「どうかしたか?」

 黒川くんが僕に訊いた。

「もうすぐ、ゲームできなくなっちゃうんだよね……」

 黒川くんは少し沈黙した後、口を開いた。

「お前、知ってるか? あのニュース」

「え?」

 黒川くんは立ち上がり、新聞を持ってきて、僕に渡した。

「これ」

 そこには「PCでの学習 ゲームより脳に悪影響」という見出しがあった。その新聞の日付は今日ではなく、数日前のものだった。

「ある学者が、本当にゲームが脳に良くないかを調べるために、ゲームの他、いろんな行動を一定の時間やり続けたときの脳波を調べて比較してみたら、パソコンを使っての勉強のほうが、ゲームよりも脳に悪いという結果が出たって記事だ」

 黒川くんはかなり真剣な表情になっていた。

「知ってたか?」

「いや」

 僕は首を横に振った。

 本当なのかな? 何にしても、それほど有名な話じゃないはずだ。その記事も小さいし、初めて耳にした。

「どう思う?」

 黒川くんは僕に尋ねた。なんというか、ピリピリとした雰囲気だった。

「聞いて、どう思ったよ?」

 そう言われてもと僕は困ったけれど、ない頭で考えを巡らせてみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る