犯人、襲撃!
マンション前の、広い道路まで出てきた綾さんに見送られたわたしたちは、ゆるゆる探偵事務所へ向かって歩いた。
「ねえ、明日もわたしたち、手伝っていいですよね」
おうかがいではなく決定口調のわたしに、王子はフワリと笑みを浮かべる。
「せっかくの休みなのに。こんな地味な調査、退屈じゃないかい?」
「退屈だなんて全然! 喜んでお手伝いします!」
「あたしも!」
わたしとフーちゃんの勢いに、王子は声を立てて笑う。
ああ、その笑顔がそばで見られるのなら、明日一日中、防犯カメラのチェックでもかまわない。
なんて思っているあいだに、探偵事務所のビルの前に到着した。名残惜しいが、さすがに帰宅時間だ。
手を振ってビルに吸いこまれていく王子を見送ってから、わたしとフーちゃんは、ふたたび歩きだした。小学校のころから同じ校区。駅前のにぎやかな道から、しだいに人通りが少ない住宅地に入る、その途中まで一緒だ。
「今日も王子はステキだったわぁ」
ふいにウットリと、フーちゃんがつぶやく。
「そうね。明日も会えるわ。しかも一日中ずっと」
「ああ、ニヤける顔が戻らない」
なんてことを言いながら、わたしたちは分かれ道にやってきた。
「それじゃあ、また明日」
「また明日ね。抜け駆けはナシよ」
笑顔で言い合いながら、それぞれ歩きだした。
だが――カバンを振り回しながら歩いていたわたしの足が、ピタリと止まる。
「しまった。コンビニに寄りたかったのに、すっかり忘れてた!」
新製品のチョコレート菓子。
思いだしたら、どうしても手に入れたくなってしまった。
「しかたがないなあ。駅前まで戻るか……」
そうつぶやきながら振り返ったわたしの耳に、悲鳴が届いた。
怖い? 怖くない?
そう考える前にわたしは走っていた。
ちっともかわいくない、あの数枚重ねた木綿を裂くような悲鳴は、まちがいなくフーちゃんだ。
分かれ道のところまで戻ると、フーちゃんのほうも同時に飛びだしてきた。
わたしを見つけて、ガバッと抱きついてくる。
「瞳! 襲われた! 後ろから殴られそうになったのぉ!」
「え?」
急いでフーちゃんが飛びだしてきた道へ、視線を向ける。
けれど、いまはもう誰の姿も見当たらなかった。
運動が苦手なフーちゃんだが、逃げ足だけは、異様に速い。
しかし、どうやら敵の逃げ足も速かったようだ。
「瞳、怖かったよぅ。歩いていたら、後ろから走ってくる足音がして。なにげなく振り返ったら、相手も片手を振りあげていてぇ」
わたしは、興奮気味のフーちゃんの二の腕を両手でつかみ、半べその顔をじっと見つめて言った。
「フーちゃん、いまからふたりで事務所へ戻ろう! これは絶対、報告したほうがいい」
「う、うん」
わたしの勢いに圧倒されたように、フーちゃんは、コクコクと小さくうなずく。
そして、のたまった。
「そうよね。もう一度、王子に会えるなんてラッキーよね」
それしか頭にないのか、フーちゃん!
周囲を警戒しながら、わたしとフーちゃんは、探偵事務所へ引き返した。
「なんだって? 襲われた?」
所長椅子に座ってわたしたちの話を聞いていた所長が、思わず腰を浮かす。
事務所内に入り、王子と所長の顔を見て安心したのか、フーちゃんはものすごい勢いで説明をした。
「犯人は絶対オンナですっ! 女性の声で、近寄らないでメギツネ! なんて言われちゃったもの! それに、バイクに乗るような恰好でフルフェイスのヘルメットだったけれど、あの体格も、たぶんオトコじゃないと思う。あと、香水の匂い!」
思いだしたら怒りが湧いてきたのか、フーちゃんは両手をブンブン振りまわす。
「香水?」
王子が、首をかしげてきき返した。
とたんにフーちゃんは、ヘニャリとした表情になる。
「そうですぅ。たぶん、綾さんと同じような匂いの香水」
その言葉に、わたしの灰色脳細胞に電流が走った。
パッと、王子の顔を見る。
すると、王子もピンときた様子で、わたしに流し目を送ってきた。
――フーちゃんじゃないけれど、王子の流し目は心臓に悪いわ。動悸息切れ眩暈の諸症状を引き起こしちゃう。
なんて考えを、頭を振って吹き飛ばすと、わたしは口を開いた。
「ねえ。これって、もしかして……?」
「うん。たぶん、ぼくもそんな気がするんだ」
王子が小さくうなずく。
そこへ所長が心配そうに眉根を寄せて、わたしやフーちゃん、王子の顔を見まわした。
「きみたちが、なにを考えついたかわからんが。こんなふうに襲われたりして
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