09 井戸の底より
「
そう呟きながら
スマートフォンを取り出し、画面を点け――そしてすぐに眉をひそめる。
そこには、圏外を示す表示が当然のように鎮座していた。
「そうだよ、ここ……昭和じゃん!」
この時代に携帯電話のインフラなど整っているはずもない。
インターネットも、アプリのサービスも存在しない。
わかってはいたが、現実を突きつけられるとやはり気落ちしてしまう。
「……それは、何だ?」
「これは『スマホ』っていって、無線……通信? だったり、調べものだったり――いろいろできる機械なんだ」
「ほう……電話、か」
「えっ、電話、あんの……!?」
「あるぞ。このあたりじゃ役場に一台きりだがな」
「そうなんだ! でも……これはこの時代じゃ、ほぼ使い物にならなくて――」
「なんだ、役に立たんのか」
「う……まあ、今は、ほぼ置物なんだけど……」
一瞬だけ視線を泳がせてから、
「でもさ、こういうことだったら――」
カシャリ、と軽い音。
画面には、気の抜けた顔で目を半開きにした
「おおおおおっっ!! 魂を吸い取ったのか!!!!」
「いや……この時代でも、写真は普通にありますよね」
「……どうにも、あれは苦手でな」
「でも凪。未来の技術は、できるだけ封印しとけ。面倒の種になりかねない」
「あ、うん。ごめん」
場の緊張がほどよく緩んだところで、話題は自然と本題に戻る。
「――で、あれがまた出てくる可能性なんだけど……あると思う?」
「
「あれだって、何もないところから突然湧いてきたわけじゃないだろ」
「井戸から噴き出した霧が形を成したものだ。原因ははっきりしてる」
「じゃあ、蓋はちゃんと閉まってるし……もう大丈夫だよね?」
「だといいんだけど……」
竹林を渡る風が、ひときわ強く窓を鳴らす。
その音が、胸の奥のざわめきを増幅させていった。
そして、そのざわめきに応えるかのように――
数分後、
“しかしあれは人間には倒せぬはず
どう切り抜けたのだ
既に神格が目覚めかけているのか“
実際に対峙したからこそわかる。確かにあれは、人が抗える存在ではない。
倒したのが
“まさかただの子供が
信じられない
倒したのは
「ただの、じゃないよな」
「へへー。みっこのカラテ、すごい?」
「すげぇよ。すげぇどころじゃねぇよ」
その小さな手に宿った力を、
もし
「なあ、
思い立ったように
「ちょっと
「なに?」
「いや……“イザナギの力”では飛べないとしても――向こうにだって鏡はあるだろ?」
「!!」
確かにその通りだ。
“俺は本来の
いわば分体だ
土地に縛られ、時代に縛られ、動くことはできない
「結局、こっちから行くしかないのか……」
“鏡の件、こちらでも手は尽くす
急げ
「あいつを地下に閉じ込めて、それで終わりじゃない」
「……やらなきゃ。絶対に三人で帰るんだ」
必ず道はある。
そう信じて、
ピロン♪
ポロン♪
にゃ~ん♪
三人のスマートフォンが、同時に音を立てた。
「……え?」
恐る恐る画面を覗いた
圏外のはずの画面に、ありえない表示が浮かんでいる。
新着通知
〈 さな 〉 さみしいよ
「電源っ!! 落とせ! 今すぐっ!!」
画面が消えたことを確認しても、動悸はしばらく収まらなかった。
今この瞬間も、イザナミは機を窺っている。
井戸の底で、静かに力を溜めながら。
重圧が、
――
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