08 鏡越しの声
「あ!」
突然、
客間の静けさを一変させるその声に、皆の視線が集中する。
「これ……」
「それは……!!」
震える手でそれを受け取り、まじまじと見詰めると――その表情はすぐに落ち着きを取り戻した。
「違う、か……これは、御神体ではなかった方だな」
ぽつりと零した声に、
「うん……多分ずっと昔から井戸の中にあったやつ。
なんとかこれ一枚だけ持って来れたんだけど、もう一枚は……」
その先を言う必要はなかった。
イザナミとともに封じられた、もう一枚の鏡。
二枚の鏡が揃わなければ、時間を越えることはできない。
それきり、客間は沈黙に包まれる。
誰も言葉を発さず、ただ鏡だけが卓の上で静かに光を返していた。
静寂の中、家の柱がぱきり、と乾いた音を立てる。
やがて――
「……これ、俺たちが使ってた方なんだよな」
「そう、だと思う」
「だったらさ……これでメッセージ、送れるんじゃないか?」
過去へとつながる鏡。
確かに、メッセージだけなら飛ばせるかもしれない。
それができれば、その『過去』に待つのは――
「――やってみよう!」
“
鏡で飛んで、今は昭和十二年にいます
イザナミも追って来たけど、井戸に閉じ込めました”
鏡に紙を映すと、思った通り反応してくれた。
「水害を知らせた文章も……こうやって送ったのか」
「うん。ここに映せば、過去の鏡にも同じ文字が出るはずなんだ」
そう言って、
その時間は息が詰まりそうだった。
やがて鏡を光にかざすと、
“よくやった
あとはもう一度、
その時代の鏡を使ってこちらへ飛べ“
胸に安堵の気持ちが広がる。
自分たちはまだ、孤立していない――その事実が、
しかしすぐに、現実はその安堵に影を落とす。
一枚しかない鏡。
“でも、鏡は一枚しかありません
もう片方はイザナミと一緒に井戸の中です “
重苦しい沈黙。
それに対する返事は短く、重かった。
“イザナミは
いずれ出てくる
急げ 道を探せ”
「探せ、って言われても……」
「どこかにもうワンセット、あったりしないかな」
「いや、聞いたことは……ないな」
長く神社を管理していた
「
神様になったら、鏡がなくても飛べたりしない?」
「それができるなら、
あの人……“イザナギ”なんだから」
「でもイザナミは、鏡を使わないでもこっちに来たじゃん!」
「確かにイザナミは時代を飛び越えてきたけど――あいつはもう
「そんな強いの……? あの黒いやつも、また出てくるのかな」
先ほど遭遇した異形――あれは本当にイザナミの分身だったのだろうか。
”イザナミは閉じ込めたはずなのに
黒い女の形をしたものに襲われました
霧が形になったようなやつでした”
すぐに応答が返る。
“それはおそらく
イザナミが使役する
かつてイザナギを追い詰めた軍勢の一部だ
「よみ……しゅう……?」
「『よもつしこめ』。日本神話で、
「なるほど――そんなところまで伝承の通りか」
そこに映っていたのは、焦りと恐れ、そして――
それでも前に進もうとする、自分自身の顔だった。
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