第25話 決着(10)―〈禁断紋章〉〈1〉

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***



「そもそもお前は、嘘を吐いている」

「嘘?そんなもの――」

白恋の言葉を鼻で笑った宇春を、射殺すような視線で黙らせる。

「まず、その箱。それはお前の固有魔法じゃない」

それは、彼女の言葉を否定するものであった。

確かに宇春は〈無敵の固有魔法〉と口にした。実際、白恋たちはその固有魔法である〈箱〉につめられたブラックホールに苦戦を強いられた。だがあの時、既に〈夜〉も展開されていたはずだ。

それはつまり、宇春の言う〈無敵の固有魔法〉とは即ち。

〈箱〉ではなく〈夜〉のことだったのだ。

「お前の固有魔法は1つ。自然現象を起こす能力。ブラックホールも、夜も、暴風雨も、噴火も。全てお前の固有魔法だ。箱の中に自然現象を閉じ込める能力ではない。その箱は、自然現象を閉じ込めるでしかなかった」

白恋の推理には、大きな穴がある。宇春はそれに気付いていた。

しかし、ここでそれを指摘することはできない。指摘したら、それは――白恋の推理を肯定することになってしまうから。

故に、彼女の取る手段はひとつ。

暴威の獣による、力での制圧であった。

月光によって弱体化する――吸血鬼である宇春と対極の存在。

そんな理外の魔導獣が羽ばたく。

――かに思えた。

「グルゥゥ――!!」

何やら苦悶の声を上げ、その獣は暴れ回る。

「な、何が起きてる!?」

宇春は理解が追いつかぬままに、駆け寄る。

「俺の武器は糸。この糸は俺の思ったままの性質に変えられる。それが例えば、神経と同じ役割をもつことだってできる」

白恋の狙いは、最初からコレであった。

「糸に暦診先生の固有魔法のひとつを繋げた。俺の糸を編んで作られた刀は、ソイツの身体を斬ると同時に、断面から神経を入れていたわけだ。今、ソイツは――生まれて初めてのを感じているところだろうな。なんせ、斬撃と共に撃ち込んだソレは、本来ならば備わっていない機能。骨や筋肉に触れ合うだけで激痛が走るはずだ」

ただそこに、神経が通っているだけで痛みに襲われる。それに苦しみ悶え、のたうち回ればさらに痛む。直に神経に触れられる痛みなど、想像もしたくない。


―先を読まれている。

己の打つ手を、読まれている。

仮にここで、宇春自身が攻撃をしていたらきっと、それも潰されていただろう。

いや、確実に潰されていた。

なぜなら彼女の固有魔法は既に見破られていた。それも、とうの昔に――だ。

〈観察者〉の中国支部。その廊下で戦っていた時に、白恋は既にその理屈を見抜いていた。


「ついでに言うと、お前の固有魔法。その対象には優先順位がある。ブラックホールで吸収されたときに、既に実証済みだ」


あの時、リチャードに出した指示は〈熱を出し続けろ〉だった。

誰よりも〈ブラックホール〉に近かったのは白恋であったにも関わらず、それが真っ先に吸収したのは〈リチャードの熱〉だった。

白恋よりも軽く、且つ近くに置いたしたミリアの人形も吸収されなかった。

そして、その箱は弾き出された人形の爪で破壊できた。

「お前の固有魔法は、〈魔法〉に真っ先に干渉する。リチャードの魔法で出した熱をひたすらに吸い込み続けていたからな。魔法に干渉している間は、他のものには干渉できない。だから近くに置いた軽い人形も吸い込めなかった。ついでに言うと、お前の魔装。それは、能力を発動している間なら破壊可能だ」


見破られている。

見破られていた。

――いや、

私は夜空を支配する者。夜の覇者だ。

〈夜天の覇者〉の二つ名に、その名を冠した魔導獣。

今は〈夜〉だ。

私が統べる、私の時間だ。

「もうわかりきっているが、お前の極は嘘だ。夜を広げる力も、その固有魔法の力。だからお前は、本当は極なんて使えないんだろう?お前の〈箱詰め少女アハト・アハト・アハト〉は固有魔法の名前ではなく、魔装の名前だ」


――それは事実。

だが、それがどうした。

「そうね。その通り。でも、貴方――何か勘違いしてないかしら。私が。


月光で弱体化する、夜の覇者。その設定の矛盾に、何も疑問を抱かなかった白恋のミス。

「究極――私は負けても死んでも構わない。私達の役割は、敵を次の階に行かせないこと。それが番人キーパーの仕事。ついでに言えば、明姐が生け捕りを希望していたから手加減していたのだけれど――良いわよね。

宇春は、語りながら自らの右腕を切り落とす。その腕と吹き出す血を隣に立つ獣に喰わせる。

それは、傍から見れば愚行。

しかし、宇春からすれば――それは奥の手。

宇春の〈太陽が苦手〉という弱点と、魔導獣の〈月光で弱体化する〉という弱点を補い合うことができる。

「さぁ――ここからが本番よ!!」

「本番なんてねぇよ」

白恋は疲労困憊。とうに制限時間を超えた〈武の極〉の反動が今にも襲ってきそうだ。

リチャードは変わらず戦意をなくし、暦診も魔導獣に通した神経を操るのに必死。

未だ、宇春だけが余裕であった。

――だが、それそこが。

この状況こそが、白恋の狙い。

「固有魔法――〈奈落の流星ラヴクラフト〉」

白恋、暦診、リチャード。全ての疲労やダメージを宇春に押し付ける。

それで終わるようなら、白恋は勝ちを確信しない。

続けてもう一発、固有魔法を発動する。

本来ならば、既に限界を迎えているはずの〈武の極〉による白絡泉への負担も押し付ける。

白絡泉が破裂し、宇春の四肢が爆散する。それにより、宇春の魔力を借りて召喚されていた魔導獣も消え失せる。

加えて――

猛炎もえあがれ――〈火群灰燼紅蓮回禄ブレイズブルバースト・イクス〉」

――戦意喪失したリチャードの極。

満身創痍かつ瀕死の宇春に打つ手なし。

「燃え尽きろ!」

リチャードの発した、太陽すら超える超高温の炎で、宇春は灰と化して消えた。



***



時は遡ること10分前。

2階へ続く階段を発見したベルナルド達。

「ようやく長ぇ廊下も終わりか。まったく、どんな造りしてんだ」

悪態をつきながらも、ミリアは人形を召喚して先に階段を登らせる。人形の足が5段目に差し掛かった途端に、階段の上から槍の雨が降り注ぐ。

「危ねぇな――クソが」

ミリアの固有魔法、〈百鬼夜行パプリカ・パレード〉は、異形――人形を召喚する力。人形には術者の任意の能力を付与することができる。

次から次へと人形を召喚し、先にひたすら登らせる。階段に仕掛けられた全てのトラップを、人形が請け負うことにより強引に解除することに成功。

ようやく彼らは2階へと足を進めることができた。

「――うげっ!!なんやねん!この趣味の悪い内装は!」

似非関西弁で話すのは、白恋の師の1人。

〈影〉天位 漆聖。

「これは――酔いそうだ」

「チカチカすんなぁ」

各々の言葉は違えど、意味は同じ。

まとめて一言で言えば、「気持ち悪い」である。

7色に発光する壁や床。それらが不規則に色を変え明度を変え、点滅して。

度の過ぎたゲーミングPCのようになっている。

「影時間のタルタロスに、こんな階層あったっけか。オレらが倒すのは、ニュクスじゃなくて明だけどな」

ミリアは、遠い昔の日本のゲームに思いを巡らせ、少しでも気を紛らせようとする。

ミリアの独り言には、誰もついていけない。

史上最年少で〈十大魔皇オーバーズ〉入りを果たした天才少年――少女。

彼に見えているものは、いったい。


「それで、これからどうするの?」

ララ・フォン・ヴィンケルマン。

彼女は唯一、〈十大魔皇〉で固有魔法を持たない魔法士だ。

だが、その実力は確かなもの。――でなければ、そもそも〈十大魔皇〉には選ばれない。

「まずはチームを分けよう。アレクシアと漆聖さん。そこにミリアを加えた3人でトラン・バオの捜索。残った俺、ララ、長閑は先を目指そう」

現場の指揮を一任されているのはベルナルド。その判断に異を唱える者はいない。

「「「了解」」」

全員が、与えられた役割を果たす為に動き出した。

バオ捜索隊は階段を降りて。

先を目指す者は前だけ見て走り出す。

互いの無事を祈ることもなく、最良の結果だけを出すために。


「――で?」

ベルナルドの後ろを走る長閑の問い。

「〈で?〉というのは?」

ベルナルドの質問返し。

「いや、なんでかなってよぉ。単純に気になったんだ。あっちのチームは3人とも、自分の固有魔法そのもので戦えないだろ。ミリアは人形を操って戦うが、一々その人形に能力を与えなきゃならない。しかも戦うのは人形であってミリア自身じゃない。残る2人はコピー能力だろ?コピーできなきゃ使い物にならない。なんでそんな奴ばかり集めた?ベルナルド」

「――たまたま、やな」

本当にそうだろうか。

ベルナルドに限って、何の考えもなしにチームを分けるだろうか。

長閑はこの男のことをよく知らない。しかし、分かる。

何も考えずに動くような男ではない――と。

「考えても無駄よ。――ヒック!!」

ベロンベロンのララが、千鳥足で2人に着いてくる。

「無駄って?」

「だって、渡たちには分かるわけないもの。過去も未来も知っている、世界3位の考えなんて、私たち凡人には」

〈過去も未来も知っている〉――その表現というか言い回しというか。酔っ払いの戯言として一蹴するようなものではない。

そんな気がした。

「――止まれ」

先頭を行くベルナルドが、明らかな警戒態勢を取る。

それを見た長閑は魔装に手をかける。

ララは一升瓶をラッパ飲みして座り込む。


「ちっ!!僕様はハズレを引いたか――」

虹色に光る廊下の向こう。

現れたのは〈僕様〉と聞きなれない一人称の少年であった。

ワイシャツに蒼いネクタイ。

膝が出る程の短さの、蒼いサロペットパンツ。

金色のふわふわとしたパーマヘア。何処ぞの王子様系のショタを思わせる彼。その瞳に、一切の光がないことさえ除けば、至って普通の〈正装した男の子〉だ。


「初めまして。そしてまた来世あした

彼は手に抱えていたジャケットを投げつける。

風を受けて広がったソレの後ろに隠れる少年。

その死角から放たれたのは――まさかのであった。

「――っ!!」

ララが飲み干した後の空き瓶をなげ、空中でそれらをぶつけて落とす。同時に大量の魔力を練り上げて、水を生成。四肢を水で押さえつけ、拘束する。

「無駄だよ」

その声が先か、少年が消えるのが先か。

さっきまでジャケットの落ちていた場所に、彼は現れた。

「――ま、これくらい対応してくれないと面白くないもんね。本当なら天位 漆聖とやりたかったんだけど――しょうがないか。代わりに君らで僕様を満足させてよ!」

王子様系ショタ――改め。

「〈観察者グレゴリオ〉中国支部へようこそ。僕様は2階を任された番人キーパー。〈禁断紋章タブー・タトゥー〉の一 九十九にのまえ つくも。誰から死にたい?」

彼の代わりに水に捕らえられたジャケット。それを謎の力で手元に呼び寄せながら啖呵を切る九十九。

「誰からって――死ぬのはお前だけや」

ベルナルドが光を圧縮し、指先から放つ。光エネルギーを熱エネルギーへ変換しながら進むそれは、まるでレーザーのようであった。

だが、しかし。

ベルナルドは突如として攻撃を辞める。

「――っ!?」

何を感じ取ったのか、長閑やララには分からない。ベルナルドでさえ分かっていない。何か、本能に訴えてくるような、根源的な恐怖に襲われたのだ。

そんなベルナルドたちを見て――だ1人、このフロアの番人だけが笑っていた。

「2階は僕様が管理している。僕様の固有魔法が最も活かせるような環境になってるに決まってるだろ?――この階の、ギラギラした内装そのものが、僕様の魔装なのさ」

――と言われたところで、ベルナルドには先程、突如として襲いかかってきた本能的恐怖の理由は分からない。

「魔装――〈戯拉戯拉腐路悪スリーピー・クリーピー〉!2階の全てが僕さまの魔装!僕様に攻撃をすれば、僕様の固有魔法が、光に紛れて反撃してくる。本当なら天位 漆聖と戦いたかったんだけどね。〈僕の光〉と〈漆聖の影〉のどっちが強いのか――気にならない?」


「光がなきゃ影はできないやろ」

「――確かに。じゃあ、僕様のギラギラした魔装と、君の純白の光と――どっちが強いかな」

九十九はジャケットを丁寧に畳みながら、戦意の対象を漆聖からベルナルドへ切り替える。

「俺だろ」

子供を適当にあしらうように、ベルナルドは己の方が強いと主張する。

――それはさすがに、九十九のプライドが許さない。固有魔法と魔装。その違いはあれど光を操るものどうし。言葉にならない言葉が、いくつも2人の間を駆け巡る。

「――うざ。死ねよ」

九十九は怒りを隠すことなく、せっかく畳んだジャケットを投げ捨てる。


光と光の戦いが始まる。

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