第5話 ゲートへ向かうぱんだ娘

「すげえバカ力だな。お嬢ちゃん何者だよ。俺だって一応C級のライセンスをもっているんだぜ」

「ふふふ、ただの通りすがりのぱんだ娘よ。あ、そうだ、ほむらちゃんはここで待っていてくれる?」

「はい。ここなら冒険者さんも多くて安全ですからね」

「ランラン、お願いね。あなたはA級の冒険者なんでしょ」

「まぁ、受付嬢ですし、あなたがゲートからもどってくるまでの間ならいいですよ。ただし生きて戻ってくること。死んだらダメですよ」

「任せなさいって。宝貝を見つけて帰ってくるから」

「宝貝ってのはなぁ、A級難易度以上のゲートでごく稀に手に入る宝なんだぜ。今回のはC級のゲート。そんな宝なんてなさそうだけどな……」

 C級冒険者のおじさんが丁寧に教えてくれた。わたしに力では負けたけれど、持っている知識の多さは勝っているようだ。ま、はじめての冒険だもんね。少し難易度低めの方がいいか。

「そんな危険なゲートに、おじさんたち冒険者はなんで行くの? 宝貝があるわけでもないのでしょう?」

「ゲートの魔物は倒すと魔法石を落とすのさ。透明度によっては装飾品やすぐれた武器の材料になるから高く売れるんだぜ」

 へぇ、こんなところはゲームと同じ設定なんだね。違うのは宝貝があるかないかだけだ。

 ゲームではゲートっていうのは悪の道士閻王が魔術で開く魔界と人間界を繋ぐ扉のことで、閉じないとうじゃうじゃと魔物が人間の世界を侵略してしまうから、速攻で潰していくものだった。ゲームだと、経験値がおいしいし、お金も素材も稼げるから24時間張り付いてゲートを探している猛者もいたほどだ。この世界でも認識はそんなに違わないはず。

「わかったわ! 行きましょう! 案内してくれる?」

 道中でわかったことなのだが、おっさんは冒険者ギルドの20名ほどのC級冒険者軍団『猛牛の角』のリーダーらしい。名前は優仁ゆうじんといって、ハンマーを担ぐごつい外見に似合わない涼やかな名前だった。

「俺はもうすぐ結婚するんだぜ、もう子供も産まれていてよ」

 そう言ってどんどんと死亡フラグをつくる優仁。まぁ、わたしがいれば大丈夫でしょ。最強装備もあるし、いく先はゲートの中でも比較的簡単な難易度のダンジョンだ。

 来た道を戻りながら山の中に入っていくと、とんでもない臭いがした。腐った牛乳を汚れた雑巾で拭いたような臭い。

「あの死体は……」

 わたしが蹴り飛ばした奴隷商人は魔物たちにはらわたをくいちらかされていた。

「知り合いか?」

「いいえ、優仁。こいつはただの奴隷商人よ」

「なるほどね。因果応報ってわけか」

 死体のすぐ先では、風景が切り取られたみたいに別の世界が広がっている。

「これがゲートってわけね」

 こっち側が晴天なのに、ゲートの先は灰色の雲に包まれていた。ギャーという声と共に翼の生えた鬼たちが棍棒を持って襲いかかってくる。その数9匹。

「いくぞ!」

 優仁の威勢の良い掛け声と共に冒険者たちは一致団結して魔物を退治していく。その動きは統率の取れたもので、全く危なげがなかった。

 空に逃げる敵には弓で、襲いかかって来るものには剣や槍、ハンマーで撃退していく。傷付けば後衛のヒーラーが治癒魔法で回復。磐石だ。

「奥にいくぞ! ボスを倒すんだ!」

「「おおおおおっ!!!!」」

 アドレナリンが出まくりなのか、みんなちょっと怖い。軽い興奮状態だ。だが、わたしたちは魔物を蹴散らしてボスがいるダンジョンの奥までたどり着いた。わたしはただ見ているだけ。というか、統率が取れすぎていて入る隙がなかった。運動会とか学園祭でもぼっちだったからね……。

 そんな過去のことを思い出していると、見知った人間がダンジョンの奥にいて、素手でボスにトドメを刺していた。

「雑魚虫がよぉ! こんな簡単な仕事も出来ねぇのかよぉ! この無能がよぉ!」

 そのまま、腕を魔物の体内に突っ込んで心臓を握りつぶして殺してしまう小太りのチビ男。わたしを現実世界でいじめていた一人、鈴木優一すずきゆういちだった。

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