第6話 ぱんだ娘と因縁のバトル
「な、なんだ、あんたは一人でゲートの最奥まで来たって言うのか?」
優仁が目を丸くして、現実世界でわたしをいじめていたクラスメイトの一人、小太りの鈴木に話しかける。なんというか危険な空気を察知した。
「あぶないよ! 近づいたらダメ!」
わたしが優仁を引き止めようとすると、鈴木優一は口角を釣り上げ、右手から魔法で火の球を発射した。優仁はとっさに盾を構えるが、盾ごと壁に叩きつけられてしまう。
「ぼくはこの世界の魔王の一人だ、気安く話しかけるな。殺すぞ」
「どういうことなの?」
優仁の仲間が叫ぶ。
「今頃各国のゲートで同じ状況なんだろうね。ぼくたちは閻王を殺した。宝貝の力でね。そして、ぼくたちがこの世界の王となり好き勝手させてもらうことにしたのさ、原始人ども」
制服姿の鈴木優一は右手から今度は雷の魔法を発射する。優仁の仲間の半分近くが一撃で炭になってしまった。わたしはというと、足が震えて思うように動けない。
「てめぇ、ふざけんなよ! 猛牛の角を舐めんじゃねえ!」
猛牛の角のメンバーが剣を振り上げる。
「なにそれ? 焼肉屋さんの名前かなにかかな?」
だが、鈴木優一の風の魔法で真っ二つにされ、またひとり優仁の仲間が殺されていく。
「そこの変な着ぐるみ野郎はなんなんだ?」
「や、やぁ、鈴木くん……」
「? もしかして、宝仙はるひか? ふひゃひゃひゃ!! なんでお前がこの世界にいるんだよ。地球人のよしみで仲間にしてやろうか? ふはははは」
「ふざけんなよ。原始人はあんたら東の国の人間だろうが!!」
優仁が隙をついてハンマーで勢いよく鈴木優一の頭を潰す。ふつうなら絶対に生きていないはずなのに、怪我ひとつしていない。
「雑魚が。死ね!」
鈴木優一は容赦なく火の球を手から出した。
「危ない! ぱんだきゃのん!!」
とっさに着ぐるみの両手からエネルギーの塊を飛ばして、優仁を守り、鈴木優一を吹き飛ばした。いけない、手加減ができなかった。
「ぐおおおおおっ!!! 魔結界っ!!!」
わたしの渾身の技を鈴木優一は片手で防いでいた。
「クソ野郎が!! 痛かったぞ! このゴミ虫めっ! もう仲間になんかしてやるものかっ! 同じ地球人だろうがこの場で殺してやる!」
なんてことなの? わたしも宝貝を装備しているのに効かないなんて!? そうか、相手も宝貝を装備しているからだ。
それに、やはりわたしのレベルが足らないのもあるかな。
なら、優仁さんが着ぐるみを着たら勝てるんじゃないかしら?
「残念だったな。宝貝の譲渡は持ち主が死ぬまで無理なんだよ」
心を読んだような台詞を吐くと、わたしの背後に回った鈴木優一が強烈な蹴りをあびせてきた。
「びびるな! ぱんだ娘! お前なら互角以上にやり合えるはずだ!」
「く、わかったわ、こうなったら、わたしが一人で食い止めるから、みんなは逃げて!」
攻撃が見えるけど、速い! けど、なんとかなるか。パワーもわたしの方が上だ。
「くそっ! くそっ! くそっ! 魔法で強化されたぼくと互角以上だと? ぼくはこの世界の魔王だぞ? あまり舐めるなよっ!」
「はぁ、はぁ、あなたたち地球のクラスメイトは一体何人が異世界に来ているの?」
「ふふふふふふ、ははははは! ぼくの知る限りは5人さ。高校で君をいじめていた5人組だよ。あとは知らないな。君みたいな、落ちこぼれのゴミ虫でもこの世界に来ているのだからね」
「人の命に上も下もない!」
「ゲームの世界の人間だぜ。くそみたいな命だろ。きっとここはぼくたち地球人が支配するためにある世界だ。天才のぼくは正しい。いつだってそうさ!」
「ぱんだきゃのん!!」
「無駄だ、その技は効かない」
「なら、エネルギーを溜める!」
「は? どうした? 両手がガラ空きだぜ」
「ぱんだきゃのんは溜めることで強くなるんだ!! くらえーー!!! 10倍ぱんだきゃのん!!!」
「なっ!? 魔結界がやぶられ……ぶひゃあっ!!」
鈴木優一だったものは消し飛んで、代わりにクリスタルのイヤリングが落ちていた。
装備品の性能を調べる。
知のクリスタル……装備者の魔力を+999上げる。
魔法に関しては無敵になれるわけか。チート級の装備だ。ぱんだきゃのんが最初効かなかったのもわかる。
わたしは知のクリスタルをパンダの着ぐるみの耳につけた。これで、ますます最強ぱんだに近づいたはずだ。
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