第4話 ぱんだ娘ギルドへ行く

 お腹もふくれたことだし、わたしはほむらちゃんに案内されて冒険者ギルドに向かった。途中、すれ違う人々の視線がわたしに釘付けだったのは言うまでもない。

「ギルドって、ゲームだと街の中心にあった記憶があるんだけれど」

「げぇむのことは存じませんが、冒険者ギルドが街の中心にあるのはその通りですよ。冒険者は魔物退治から街の警備までなんでもこなすなんでも屋さんみたいなもので、それを一手にまとめているのが冒険者ギルドですからね」

 ふむ、そこで身分証を発行するのか。なんだか市役所みたいなところだな。ペンと剣が重なるようなマークを看板にした冒険者ギルドの建物が見えてきた。この世界では珍しい4階建てくらいの大きな建物で、外観は赤いレンガでできている。そして、冒険者ギルドの周りは酒場や屋台があって、筋骨隆々な冒険者たちが幾人も青龍刀や槍など各々の武器を持って昼間っからたむろしていた。なんというか、コンビニにたむろする不良のマッチョ版でとても声をかけられる雰囲気ではない。

「なんだか、治安が悪そうね」

「まあ、冒険者と言えば荒くれ者が多いですからね」

 ギルドの扉を開けると、受付嬢の女の子が立っていた。あれ、熊猫亭で会った看板娘にそっくりだ。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」

「お姉さん、熊猫亭で働いていませんでしたか?」

 わたしの問いかけにクスクスとツインテールの中華娘が笑う。

「あの娘はフェイフェイと言って、わたしの妹なんですよ。わたしの名前はランラン。この冒険者ギルドで受付嬢をしていて、わたし自身もA級ライセンスを持つ冒険者です」

 A級とか言われてもよくわからないが、とにかく強いことは確かだろう。わたしは何級なのか楽しみになってきた。いきなりS級冒険者になって、周りを驚かせちゃったりしてね。

「身分証として、冒険者の証が欲しくて来ました。あと、お金も稼ぎたいです」

 そう言うと黒光した筋肉の大男が大きな声で笑い始めた。

「お嬢ちゃんみたいな可愛い娘ができるものじゃないよ。死なないうちにとっとと帰りな」

 むぅ、生意気な。わたしの強さを見たらビビるぞ!

「では、レベルを教えてもらいますので、こちらの水晶に手をかざしてください」

 わたしは得意気に手をかざした。何しろ小鬼や奴隷商人を倒して来たのだ。

「レベル3ですね。Fランク冒険者の証を進呈いたします。免許の更新は一年に一回なので忘れないでくださいね」

 あれ、なんのイベントもなく終わっちゃったよ。しかも、誰もわたしの強さにビビらない。

「もしかして、わたしってめちゃくちゃ弱いのかな……」

 ぼそりと呟くと、ほむらちゃんが首を横に振った。

「とんでもありません。ぱんだの着ぐるみを着たはるひさんはとっても強いですよ」

「そういえば、ほむらちゃんは何レベルなの?」

「わたしは6レベル。F級を卒業してE級になりたての冒険者くらいですかね」

 なぬ、わたしってほむらちゃんよりレベルが低かったのか。ぱんだの着ぐるみを装備していなかったら、最初の奴隷商人のところで詰んでいたな。そんな話をしていると、槍を持った男が大慌てでギルドに駆け込んできた!

「おい! ゲートだ! ゲートが開いたぞっ!」

 なんですと!? いきなり宝貝が見つかるかもしれないじゃない!!

「お姉さん、わたしたちもゲートに行きたいんだけれど」

「なっ、とんでもありません。E級冒険者は薬草集めや害獣駆除が普通です。ゲートへの探索は最低でもC級になっていないと命の保証はできませんよ……周りの冒険者の足手まといにしかなりません! 受付嬢として許可出来ません!」

「でもな、その先に宝貝があるかもしれないしな」

「あははははっ、嬢ちゃん、宝貝を手に入れようってのかい? それは無謀だぜ。あんたらみたいな異国風の男も似たようなことを言っていたが、生きてないだろうな。冒険をなめると……後悔するぜ。どうしてもっていうなら、俺と力比べをして勝ってみな」

 腕相撲をしようというらしい。木製のテーブルの上にプロレスラーみたいに太い腕を乗せている。

「勝ったらゲートにいくわよ」

「いいぜ、俺らと行くといい。俺に勝てるなら足手まといにはならないだろうさ」

 ほむらちゃんが審判として、わたしたちの間に入る。

「負けたらゲートにいってはいけませんよ」

 ほむらちゃんも心配して、わたしに忠告してくれる。周りを取り囲む冒険者たちはわたしのことを無謀な挑戦と思っているのか大笑いしていた。

「わかってるって、かかってきなさい!」

「いくぜ! おら! ら?」

 わたしの手はピクリともしない。というか、この男、本当に力を入れているんだろうか、ゆっくりと腕を倒していく」

「ぐ、ぐむむむ、ふんがっ!」

 大男は顔を真っ赤にしているがわたしは1割も力を入れていない。

「わたしの勝ちね」

 相手の手の甲をテーブルに押しつけると、わたしたちの戦いをみていた冒険者たちは笑うのをやめていた。

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