第3話 ぱんだ娘中華料理を食べる

 高い石づくりの壁に囲まれた都『紫音』。

 わたしたちがテーマパークの入り口みたいに大きな門をくぐろうとすると甲冑に身を包んだおじさんに話しかけられた。

「お前さんたちはこの国のものじゃないな? その身なりはなんなのだ?」

 パンダの着ぐるみ姿を上から下までじっくりと見つめられる。なんだかすごく嫌な気分。

「なんでパンダなのだ? それにそちらの女は東の国の者ではないのか?」

「はい。日の出ずる東の国の巫女、東堂ほむらと申します。どうかこの国の帝様に東の国の建国を認めてもらいたく、海を渡り参りました」

「日の出ずる国とは生意気な! しかし、パンダ娘とは縁起が良い。そちらの娘はおぬしの従者か?」

 いいえ……ほむらちゃんがそう言おうとした時、わたしの方から、そうです、と答えた。その方が面倒がなくて済みそうだから。ぱんだ娘は奇妙すぎる。道ゆく商人たちもじろじろとこちらを見つめている。

「恩人にそのようなことは……」

「いいのよ、ほむらちゃん。こっちのほうが面倒ごとが少なそうだし」

「そうか、東の国からこのぱんだ娘を帝様に献上しようというのだな」

 え!? それは困る。ゲームの世界ではイケメンだけどまだ中学生くらいの子供だったはずだ。うーん、後宮ハーレムものにぱんだの着ぐるみは似合わない。それに、わたしには宝貝を探すという任務もあるのだ。

「はい、彼女は従者というよりは親善大使のような存在ですから」

 ほむらちゃんまで……。

「よし、通っていいぞ。ただし、親善大使は身分証を作っておくといいな。この都は犯罪も多い。巻き込まれたくなかったらギルドに行って冒険者の証をもらっておくといい」

 うんうん、冒険者ギルドってあったわね。薬草を集めてこいとか、モンスターを討伐してこいとか、そういう依頼を受ける場所。イベントがあれば参加の受付窓口にもなる。とりあえず、わたしはこの世界のお金もないし、冒険者ギルドでお金を稼ぎながらレベルを上げるのはRPGのお約束だから悪くない。

「本当に良かったのですか? わたしの従者などと名乗ってしまって」

「でも、ああでも言わないと通してもらえなかっただろうし、しょうがないわよ。それより、お腹が空いちゃった。中華料理の良い匂い。チャーハンとラーメンかしら」

「ならご馳走いたしますよ。わたしは東の国からお金もたくさん持ってきましたから」

「ありがとう! 本場の中華料理が食べられるなんて幸せだわ!」

 暖簾のれんをくぐると、チャイナドレスを着たウェイトレスさんが忙しそうに中華料理を運んでいた。

「いまはお昼ですからね、お客もいっぱいですね」

「いらっしゃいませ! 熊猫亭ぱんだていへようこそ! お客様は2名様ですか?」

 ぐいぐいくる元気で可愛らしいツインテールのチャイナっ娘だ。まだわたしとそんなに歳が違わないのにお店で一生懸命に働いている。それに対して、わたしは勉強もせず、働きもせずに、自堕落な生活をしていたな。

「熊猫亭ではぱんだの着ぐるみを着たお客様にはサービスがあるんですよ!」

「おお、それは初耳!」

 ゲームでもぱんだの着ぐるみなんて装備していなかったものね。はじめてのイベントだ。

「銅貨3枚以上注文したらぱんだ杏仁豆腐がおまけされます!」

 銅貨3枚か。たしか300Gゴールドよね。銀貨は1枚1000G、金貨は1枚10000Gだ。ゲームでは1G=1円くらいの価値観だった。

「じゃあ、ラーメンとチャーハン、それにギョーザをお願いするわ」

「はい! そちらのお客様は? わ、わたしはチャーハンだけでいいです」

「ええ、ほむらちゃん、食べないと冒険する元気が出ないよ」

「そ、そうですね。じゃあ、同じものをお願いします」

 座席に案内されてしばらく待つと濃厚な出汁の匂いがするラーメンが出てきた。鶏ガラかしら。チャーハンもパラパラとしていてとっても美味しい。ギョーザは噛んだ瞬間肉汁が口の中に弾け飛ぶ。日本ではなかなか食べられない味だ。わたしこの世界に住みたいかも。少なくとも食事には困らないわね。お金さえあれば。

 ほむらちゃんも美味しかったのか、ぺろりと平らげてしまった。おやつのぱんだ杏仁豆腐は仲良くふたりで分け合って食べちゃった!

 おやつは別腹ね。

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