第12話 2日目の朝
おはよう。まだ家で寝ている家族達。朝日が昇る少し前だものね。
愚弟のいない一日を送る寂しい家族達へ。改めておはよう!
私は最高の気分よ。まさに、清々しい朝。
昨日はとても、そう、とても良い日だったわ。
朝から二人でのんびりと乗馬を楽んだ。
愚弟も満足気だったわ。馬に乗るのが好きだものね。
年相応の、素の笑顔を見れる数少ない機会。
いつまでも見ていたいわ。あの楽しそうな顔を。
たまに交わす会話と訪れる沈黙を繰り返す。それがまたいい。
普通の日常。とても平和な日常。
会話でたまに女の話が出てたけど、それはまぁいいわ。
私達の代わりに人間関係を作ってるのだもの。
でも、ギルドのエミリーはちょっと愚弟に近寄り過ぎているように感じるわね。
愚弟は変な女を妙に引き付ける。どうせエミリーもその類だわ。何かある。
まぁ、ギルド職員だからあと1カ月もしたら受付からどこかへ変わるでしょ。
気にしないようにするわ、今は。必要があれば、いいピースになるかもね。
可哀想な愚かな弟。貴方に好意を寄せる、貴方を一番に思うまともな女は私だけね。
家族であるイルミナちゃんもウッドリアも、性癖が歪んでるし。
それよりも宿よ宿。宿に入れば私と愚弟以外の存在は消える。
この部屋にあるのは、愚弟と私のみの世界。
永遠に続いてほしい、私が望む理想。
あくまでも理想。その理想を叶えるのは無理だから。
だから、巡ってきた機会を存分に楽しむの。
二人っきりの夕食。その時間はとても素敵だったけど、愚弟が作った夕食じゃなくて不満だった。
夕食が終われば、私だけの、私の為だけのお着替え。普段より念入りに、
労わるようにタオルで拭ってくれた。いつも通り、劣情の混じった瞳。
その顔も今は私の一人占め。至福ね。
私のネグリジェを着せ終われば、愚弟の着替え。
部屋の隅で着替える愚弟の様をじっくり見る。バレないよう。
だって、意外と珍しいのよ。愚弟の生着替え。見るに決まってるじゃない。
…ミリムは隙あらば見てるらしいけど。
一昨日に薬を買った後、一緒に帰り道を歩いた。というか付いてきた。
「なんで?」と聞いたら
「エルド君をおやすみまで見守るから」と言ってた。筋金入りね。
ミリムの事は置いておいて、愚弟の裸。
背中や腕に、所々にある傷跡。訓練や実戦を積み重ねた弱さの証。
愚弟はそんな風に思ってるのでしょう。愚かね。
突出した強さは無いけれど、だからと言って弱い訳じゃないの。
私達がそう言ったとしても、慰めと受け取るだけでしょうから言わないけれど。
愚弟の諸事が終われば、最後のお楽しみにしてメイン。
愚弟を丸椅子に座らせて、膝に跨る。
両足で腰を挟み込み、胸も腹部も密着させる。
腕は背の感触を楽しみつつ、顎を肩に乗せる。
愚弟の暖かい体温。首筋からの匂い。ああ、これだけでも蕩けそう。
頭を撫でさせながら褒めさせる。
愚弟は家族にお世辞を使わない。褒めさせれば本心から褒めてくれる。
堪らないわ。愛する人と密着しながら、囁かれるのは全肯定する言葉。
全身が弛緩するほど心地よい。でも、徐々に昂りに比重が傾いていく。
そろそろまずいと思う頃に、穏やかな眠気に誘われる。
もうそろそろ終わりね。勿体ないけど今日はここまで。
夢心地で愚弟の声を聴きながら、体温を分け合う感覚に浸りながら、
誘われる眠気に身を任せた。
そして、夢が覚めて今。とても良い気分。
ミリムのからもらった薬を、夕食の時にこっそり飲んだ。
眠気に抗わなければそのまま眠れる薬。
薬が無ければ、もう襲ってもいいんじゃない?と葛藤する羽目になる。
もうこれ同意よね?強引に押せばイケるわよね?と。
今やってしまったら計画は終わりよ?どうしようもなくなるわよ?と。
結局、ぎりぎりのところで切り上げて悶々と眠れなくなる。
昔はそうだったから。ミリム様々ね。
ちなみに、愚弟にも薬を盛ったわ。こっちは意思に関係無くコロっと寝るタイプ。
どうせ愚かな弟は、私をベッドに運んだ後に、愚かだと自分を責めるだろうから。
愚弟の寝顔をじっと眺める。朝日が昇る頃に起きるだろう。それまで、じっと。
明日は、愚弟が先に起きているだろうから。
パチリと目を開けると、部屋が薄暗い。夜明け頃だろう。
自己嫌悪に陥りつつ寝入った自分に、また自己嫌悪しそうになるところで、
ストレッチをしている姉君様に気付いた。
自己嫌悪などどうでもいい。頭を切り替える。
「申し訳ありません姉君様。すぐに準備します」
本来は僕が先に起きて、朝の準備を済ませているのが常だ。急いで準備に取り掛かる。
「愚弟、朝の挨拶はぁ?」
「失礼しました。おはようございます。姉君様」
「ええ、それじゃぁ、着替えさせなさぁい」
「…ありがとうございます。姉君様」
普段の穏やかな笑顔。姉君様に甘えてしまったな。
姉君様と自分の準備をした後に、受付に向かうと昨日と同じおじさんがいた。
「おはよう。早いねお客さん。朝食を準備するからちょいと待ってな」
朝食は受付で貰うらしい。
出された品はパンとスープとヨーグルト。
「食器は部屋にそのまま置いといてくれ」
と、二人分を預かる。部屋に運び、姉君様と朝食を取る。
味はやっぱり普通。姉君様はやっぱり不満げだった。
どこかのタイミングで、姉君様好みの食事を作りたいな。
旅装を整え、宿を後にし馬借屋にて馬を引き取り、出発。
今日の日暮れにはクマルス男爵領都市クマルスに入り、
翌日の朝に護衛対象と合流予定だ。
朝のやらかしを引きずらないよう、気を引き締めて行こう。
「愚弟、顔が固いわぁ。愚かねぇ」
姉君様から見て、僕は気負い過ぎていた様子。
深呼吸を一つ。愚かなる僕は親愛なる家族のために。
心の中でそう唱える。
「ありがとうございます。姉君様」
優しい一言に礼を返しつつ思う。いつも通りにいこう、と。
普段と様子の違うと教えてくれる姉君様に、家族に嬉しさを感じながら。
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