第13話 ギルド出張所
2日目の道中も何事もなく、クマルス男爵領都市クマルスに到着した。
馬2頭、オルフェとウィンバリーとはお別れだ。寂しい。
護衛任務は対象を守りながら徒歩で進む。
少し仲良くなった馬達を、預けに行くのは我が国家のギルド出張所。
支部ギルドではなく、ギルド出張所。
違いは、他国において支部ギルドの敷地内は我が国家の法が適応される。
実質、大使館も兼ねているためだ。
対して出張所。領主に許可を取り設置されている。特に何の権限も無い。
しかし我が国家にとっては重要だ。
1つ、他国の状況の調査。治安、食料事情、経済などの情報をその領地の法に
触れない程度に本国に報告する。
2つ、我々自由傭兵の管理。管理と言っても厳しい意味合いではない。
まず出張所は、自由傭兵向けの宿屋と馬借屋を用意している。
自由傭兵は任務の前に出張所の宿を利用するか、都合によっては顔だけ出す。
周辺領地の情報が欲しいからだ。
そう言った理由で出張所を訪れることで、足取りを残せる。万が一、何かが起こった場合は最後に訪れた出張所から調査が開始される。
3つ、支部ギルドの設置。出張所では任務依頼を受け付けていない。
有用性を示す機会を待ち、出張所から支部への変更を領主へ打診する。
こんなところだろうか。
僕達にとっても、1つ目の情報も、2つ目の足取りを残すことも大事だ。
命が懸っているいるのだから。
そんなことを考えながら、街の端にあるギルド出張所へ到着。
出張所横の馬小屋があったので、馬丁さんに世話になった2頭を預ける。
出張所の入口にはレオパルドン紋章が入った丸板の下に、
『ガストン傭兵団・クマルス出張所』の看板。
ギルドの看板と比べて、とても簡素である。
外観は、酒場宿。おそらくそのまま買い取ったのだろう。年季が入っている。
扉を開け、中へ。
内観は、やはり酒場宿。バーカウンターに数席、テーブル席が3つ。
奥に2階へ上がる階段。上が宿になっている様子。
「…ようこそ同胞。クルマス出張所へ」
胸元のレオパルドン紋章を一瞥し、声を掛けてきたのはカウンター内の女性。
傭兵団服を着用し、カクテルグラスを磨いている。年の頃は30代だろうか。
藍色の髪を七三にして後ろで縊って、落ち着いた雰囲気を醸し出す。
団服ではなくバーテンダー服なら、正しくバーのミストレスという雰囲気だ。
「こんばんは同胞。今夜の宿と、情報を。これが概要書です」
簡潔に用件を伝え、概要書を手渡すと女性は目を通す。
「『執事もどき』と『
ここに着任してからずっと。フフッ、ベテラン所長よ」
出張所職員の係はローテーション制では無い。
ただ、任期を過ぎて希望を出せば、ギルドに異動できる。
好きで所長係をやっているのだろう。
「明日発つなら他の職員の紹介は必要ないわね。部屋は…そう、ツインね。
これ、部屋の鍵。二階の一番奥。
一息ついたら、降りてらっしゃい。食事を準備しておくわ」
ポタラさんは姉君様を見てツイン部屋の鍵を差し出した。目で会話したのかな?
金貨1枚を出し、鍵をもらう。出張所の宿はどの領地でも、一部屋一律金貨1枚。
部屋に入り旅装を解き、軽く姉君様の手と足を拭ってから一階へ。
僕達を見て、ポタラさんが料理をカウンターに並べてくれる。
ポテトサラダにポテトフライ。後はステーキとマッシュポテト。ポタージュも
じゃが芋?芋尽くしだなぁ。
「クルマス領はじゃが芋が名産なの。是非いっぱい食べてほしくて」
なるほど。手を付けると、確かにおいしい。名産というだけある。
姉君様は微笑みが消えた顔で黙々と口に運んでいた。気持ちは分かります。
ただ、意外と飽きずに完食した。各料理の味付けが良い塩梅だったのだろう。
参考になるなぁ。帰ったらお二方に振舞ってみよう。1品ずつだけど。
「さて、食事も済んだところで」
ポタラさんがカウンター下から燭台と水晶を取り出した。
「登録を行いましょう。まずは生命感知魔術から。さぁ、燭台に血を」
任務前に必ず行うことだ。
ナイフを手渡され言われた通り、燭台に指を軽く切り血を垂らす。
燭台に火が灯る。
生命感知魔術。
火は7日間灯り続ける。その間に火が消えた場合は、命が失われた時。
「次いで、探知魔術登録と通信魔術登録を」
首に下げていたギルドプレートを水晶にかざす。
探知魔術。ギルドプレートを基に、前世で言うビーコンの役割を果たす。
通信魔術。水晶に登録された人物同士の通信を可能にする。
これらを登録することにより、有事の際には近隣のギルド職員が管理してくれる。
魔術ってなんでもできるなぁ。誰が思いついてこんな魔術作ったんだろう?
姉君様も同様に登録を終わらせる。
「『我々、クマルス出張所は職務を果たす。同胞に幸運を』」
ポタラさんが終決の言葉を発し、登録は完了。
これによりクマルス出張所からの管理を受けることが出来る。
「それじゃ、次は情報ね。その前に一杯いかが?私、カクテル作るのが好きでここにいるの」
冗談めかしながらポタラさんはシェイクする仕草を取る。
「任務前ですので、軽めをおまかせでお願いします」
出てきたのは、真っ赤なカクテル。一口舐める。あ、おいしい。
トマトジュースと蒸留酒?ブラッディマリーだこれ。
「さてさて情報ね。マルス男爵領は…」
「メルギド子爵領は…」
「そういえば貴方達の前に来た自由傭兵が…」
前世の記憶にあるお酒に、物懐かしさを感じながら頭にある情報を更新する。
「こんなところかしら」
「ありがとうございます。あ、飲み物のお代を」
「サービスよ。いい夢を」
もう一度ポタラさんに礼を言い、部屋に戻る。
姉君様を着替えさせ、諸事を行う。昨日と同じ。
違うのは、姉君様も僕も支度が済むとすぐに眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます