第10話 そういうことになった
家に帰ると、お三方は未だリビングで寛いでいた。
昼食は果実を齧っただけとのこと。サンドイッチを作り食べてもらった。
食後の飲み物を準備して、受諾した任務の説明をする。
説明途中に一瞬殺気が出たのは、やはりお三方も傭兵。気が昂るのだろう。
説明を終えると、少々の沈黙が流れた。
「ところで愚弟、今日のディナーのなぁに?」
沈黙を破ったのは姉君様。
「いつも通りパン、スープ、サラダ、メインは鶏のソテーです」
「そう。私は三日月鳥が食べたいわぁ。みんなは?」
「新鮮な三日月鳥が食べたいですの」
「狩りたてがいい」
「そういうわけで、愚弟。狩ってきなさぁい」
鶏は不人気な様子。
三日月鳥。前世で言えば、七面鳥っぽい鳥だ。
違いは、三日月模様がこれでもかと入っている。すごく目立つ柄。
鶏より癖が強いが、旨味も強い。
近くの森に入れば、比較的簡単に狩れる。
市場にも売っているが、狩りたてをご所望なので森へ入るか。
3時間ほどで戻ってこれるだろう。夕食時で丁度いいか。
親愛なるお家族のリクエストだ。是非もなし。
「承知しました。では、行って参ります」
一礼して家を出る。鶏は茹でて明日のサラダに混ぜよう。
「行ったわねぇ」
ここは長女である私、アイリスが取り仕切るわ。
「行きましたんですの」
「行った」
3人で愚弟の気配を確認。確認は大事だわ。
「まずは、2人の希望を聞きくわぁ」
「私が同行するんですの」
「占有5日で手を打つ」
「5日は欲張りすぎですの。3日が妥当ですわ」
「7日も愚友と一緒。同じ7日でもいいところを妥協した」
まぁ、こうなるわよねぇ。さて、私の意見は
「私が同行するわぁ。日数は14日間ねぇ」
「頭が湧いたんですの?」
「馬鹿か?」
辛辣ね。張り倒したいわ。でも、気持ちは分かるので我慢する。長女だもの。
「まぁ聞きなさぁい2人とも。まずは、地図を思い浮かべてぇ。メルギド子爵領の2つ隣はどこの領地ぃ?」
「ストラトフ伯爵領ですわ」
「お嬢のところ」
「そう、ルナマリア嬢。私達の協力者ねぇ。たまには愚弟を連れてご機嫌を伺わないとぉ」
ルナマリア・ストラトフ。ストラトフ伯爵家の三女。計画に必要なピース。
愚弟を運命の君だと宣う、男装趣味のイカレた女。
まぁもし正気に戻って、愚弟から離れるならばそれでもいい。
新しいピースを用意するだけ。候補はまだある。
「結局、アイリス姉さまがいい思いしたいだけですの」
「それは許せない」
「それに、お嬢に会いに行くなら私でいいですの。そうしますの」
「それも許せない」
「聞きなさぁい。みんなが笑顔になれる案があるわぁ」
「ほんとにですの?」
「聞くだけ聞こう」
2人とも訝し気な顔ね。私、家族のために頑張って頭使ってるのよ?
「まず、移動に2日、3日で任務完了、帰りに2日で計7日。
これが愚弟が考えているルートね。そこでストラトフ伯爵領を旅程を入れる。
メルギド子爵領から2日の距離ねぇ。ここまでで7日間よぉ。いい?」
2人は頷くのを確認して続ける。
「ストラトフ伯爵領で、お嬢、イルミナ、ウッドリアが1日ずつデートする」
2人はデートという言葉に目を輝かせた。掛ったわね。
「ストラトフ伯爵領で約3日。帰りは家族でみんなで一緒ぉ。どう?」
「愚兄とデート。流石ですのアイリス姉さま」
「愚友とデート。いい。とてもいい。」
そうでしょう、そうでしょう。
「アイリス姉さまはデートしませんですの?」
「本当はしたいけどぉ、移動とは言え4日もらうから遠慮するわぁ。
これからお嬢に手紙を書いて、茶会警護任務でも2人指名で出してもらうわぁ。
あとは伯爵領でお嬢と計画の打ち合わせしたりするんだけどぉ、
イルミナちゃんが代わってくれるぅ?」
「デートでお願いですの」
「ウッドリア、異議はぁ?」
「なし」
よし、話はまとまったわね。ふふっ、4泊も愚弟と一室で過ごせるわ。
家族みんな幸せね。
デートプランをキャッキャッと考える2人を見ながら思う。
本当は、私が独占したい。2人を消してでも。
でもそれは無理。愚弟は家族が大事だから。
誰か一人でも欠けたら、とてもとても悲しむでしょう。
そんな思いをさせてまで独占したいとは思わない。
でも仮に、愚弟と2人の命が天秤にかかったら迷わず愚弟を取るわ。
愚弟が死ぬなら、私も一緒に死ぬ。
2人も同じ気持ちでしょう。それに私も2人が好き。だから妥協する。
家族が誰も死なないように、鳥籠を用意する。この国では叶えられない私達の安寧。
そのために必要な人物も、愚弟に命を懸けれる人物も引き入れる。
私達は本当の家族になる。協力者は妾でも愛人でも好きにどうぞ。
でも、愚弟に命を懸けれる人って変態が多いのよね。
例えば、ミリム・エノルタ。
愚弟がこの国にいる間は、気付かれないようにずっと付き纏っている。
何が楽しいのかわからないわ。最初見つけた時に、
「愚弟に付き纏って、気持ち悪いわぁ。やめなさぁい」
と不快だったので忠告したわ。警告じゃなくて忠告。そしたら、
「お断りよ!」
と返ってきたので、3人でボコったわ。
ああ、もちろん拳でね。武器を使ったら法に触れるもの。
でもあの女、次の日も付き纏ってた。所々包帯巻いた姿で。再度、ボコったわ。
それから3日見なくなったと思ったら、また見つけたの。平気な姿で。
気配を消すのが上手くなってたわ。怪我はどうやって治したのかしら。
もう一度、ボコったわ。
2カ月ほど経って、ふと見なくなったなと意識したら、いたわ。
驚くほど気配が消えていて気付かなかっただけみたい。
変態の執念って怖いわね。
あれだけボコっても懲りないうえに、技術を上げてくる。
ただ愚弟に付き纏う為だけに。
興味が湧いたので、とりあえず話を聞いてみたの。
「一目惚れしたの!ずっと見ていたいの!」
「あなたは愚弟の為に命を懸けれるかしらぁ?」
「彼が死ぬなら私が庇って私が死ぬ!」
良い返事だったけど。笑顔だけど目が澱んでたわ。良い眼だわ。
その後少しずつ交流して、折を見て計画を話して、今では立派な協力者。
さ
いい拾い物と言っていいのかしら。薬とか助かってるけど。
あと、愚弟がいないときの食事とかも。ウッドリアも本関係で重宝してるし。
何よりこの国に愚弟がいる時は、大抵付き纏ってるから変な虫の情報もくれる。
情報は大事ね。まさか未亡人まで寄ってくるとか。まだ15歳よ愚弟は。
今のミリムは洞察力は斥候士並み。付き纏うだけなら暗殺士並みね。
洞察力と言えば、
「ところでなんでわざとそんな口調で喋るのー?」と聞かれたことがあった。
わざとこの口調が作っていると知っているのは2人だけ。
愚弟にも、他人にも覚られることはなかった。極まった変態はすごいのね。
「幼いころの愚弟がぁ、こんな口調の女が好きって言ったからぁ」
本当の事よ。間延びした声でのんびり穏やかお姉さんがよいと言っていたわ。
「イルミナも?」
「愚弟の好みを聞いたって言ってたわぁ」
私も、イルミナちゃんも、幼い頃に聞いた愚弟の好みを演じている。
イルミナちゃんの似非お嬢様言葉。
わざと似非にしてるのよね?本当に「ですわ」「ですの」付ければいいと思ってないわよね?
ウッドリアは自然体。むしろ愚弟のリハビリで良く話すようになった方ね。
「いいねー家族は。羨ましい」
ミリムは家族の事で揶揄ったりしないからいいわ。
あ、そう言えば念のためミリムの所へ薬を買いに行かなきゃ。
今は狩りに出た愚弟に付き纏ってるだろうから、夕食の後ね。
「ただいま戻りました」
「愚弟。任務が終わったらぁ、その足でストラトフ伯爵領に行くことになったからぁ」
そういうことになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます