第9話 エノルタ雑貨店
護衛任務の契約書を作ってもらう。
契約書。
任務概要と国家法を下にした我々の行動方針を、他国向けに分かりやすく記載する。
間違いが無いことを確認した依頼代表者と請負代表者がサインすることで、
契約は成る。
誤字脱字、記載漏れは許されない。
ギルド職員の記入係、チェック係、再チェック係の3係によって作成される。
よって、契約書完了まで少し時間を要する。
その合間を利用し、常設依頼の掲示板を眺める。
今回は僕と、姉君様か妹様との任務になる。
親友様は他国に出るのを好まない。そもそも家から出るのも好まない。
他人と会うこと、話すことが面倒なのだそうだ。
端的な口調もその表れだろう。
家を出るのはパーティ任務の時が大半。
あとは、本を買いに行くときぐらいだろうか。
親友様は本が大好きだ。部屋の三面が本棚になるほど。
なので書籍代と自分の生活費の足しを稼ぐため、
夜半にふらりと外に出て、常設任務をこなしてくる。
夜目が利く暗殺士である親友様なりの働き方である。
その親友様が可能そうな常設任務を確認しメモする。
常設任務に契約は存在しない。
狩りや採取なら、成果物を。依頼者がいる場合は、完了の木札を。
ギルドに持っていけばよい。
パーティ名義で提出するので、僕がギルドに出向くだけだ。
常設任務の確認を終わらせ、顔馴染みの自由傭兵達と雑談していると、
エミリー嬢から声が掛かった。
再度個室に入り契約書を確認し、問題無い旨を伝える。
その場で契約書を丸めギルド紋章にて封蝋してもらえば、手続き完了。
「よろしくお願いねエルド君。エミリー、お土産はお菓子がいいの」
と、あざとい態度でいつも通りお土産をねだるエミリー嬢。
「ええ、美味しいお菓子を買ってきましょうとも」
軽口を掛け合いながらギルド出口へ向かう。
こちらに残る家族にお土産は買っていく予定だ。
1人分増えたところで問題ない。お土産を渡して喜ぶエミリー嬢は可愛いしね。
出口にてエミリー嬢より、
「自由傭兵『執事もどき』。傭兵の責務を果たす、貴方の全てに幸運を」
笑顔でもなく、あざとい顔でもない。至極真面目な顔での一言。
その言葉に頷きで返し、ギルドを後にした。
さて、7日間の任務。必要なものを揃えますか。
一方その頃。
「ああ、昨日は良かったわぁ」
「ええ、毎日したいですわ」
「同意」
余韻に浸る女性3人。
「いつも最初を譲ってもらって悪いわねぇ」
「問題ありませんの。
アイリス姉さまに悪いですわ。リア姉は
「何があろうと最後が一番興奮する」
「性癖が嚙み合ってて助かるわぁ。順番で揉めないものぉ」
「アイリス姉さまの後だと愚兄がいい感じに仕上がってますの。寝てても満足気な顔をして。そこに縄で腕を縛って、手で首を絞めながら…苦しそうな愚兄の顔。たまりませんの」
「僕は2人に滅茶苦茶にされる愚友を見ると胸が痛むんだ。愛しい人が穢されているから。でも興奮するんだ。とても興奮するんだ。その興奮を愚友にぶつける。
最中に手を取って爪で傷をつける。その痛みがたまらない。愚友の爪で傷つけられた事実。いい。とてもいい。出来れば傷はそのままにしたい」
「お着替えでばれるので駄目ですの」
「私はぁ、愚弟が綺麗なまま肌を重ねられたら今のところは満足ねぇ。本当は視線を感じながら絡み合いたいけど無理だから諦めてるわぁ」
「やっぱりアイリス姉さまが一番ノーマルですの。それにしても、片付けの役目が綺麗に分かれるのも面白いですわ」
「私が愚弟を綺麗に拭いてぇ持ち上げてぇ」
「その間に僕がシーツを替えて着替えさせる」
「最後に
「完璧だわぁ。あなたたちが家族で本当によかったわぁ」
「家族ですもの。当然ですわ」
「家族は助け合うもの」
「でもあれだけやっても起きないってぇ、すごいお薬よねぇ。あれの反応はバッチリなのにぃ」
「エノルタ雑貨店。いえ、ミリムはすごいですわ。ニーズを分かってますの」
「おそらく魔術要素を含んだ調合をしている」
「ミリムがいて助かるわぁ」
「よき協力者ですの」
「2年後が楽しみな様子」
和やかに続く猥談兼雑談をする3人が殺気立つまで、あと数時間。
市場で準備を終わらせて最後に向かうはエノルタ雑貨店。
家から10分ほどの、2日に1度は顔を出す、粗方なんでも売っているお店。
扉を開けるとベルが鳴り、
「いらっしゃいませー!」と声が掛かる。
「こんにちは。ミリムさん、今日も可愛いですね」
「エルド君こんにちは。そう言う君は今日も格好いいね」
と、いつものやり取りを交わす。
エノルタ雑貨店の看板娘、ミリム・エノルタさん。
栗色の髪でショートカット。クリっとした瞳に愛嬌のある笑顔で、
まさに看板娘なお嬢さんである。
はずなのだが、今はニヤニヤとした顔で僕を見る。
ミリム嬢はたまにそんな顔をする。良いことでもあったのかな?
「何かありました?」
「いやいやー気にしないでー。そんなことより何がご入用?」
普段の愛嬌のある笑顔に戻る。可愛らしい。
「保存食を4本と、いつものコーヒー豆と茶葉を」
「はいはーい。用意するからまっててねー」
保存食。前世で言うところのカロリーメ〇トである。
市場にも取り扱う店は何軒もあるが、味はエノルタ雑貨店が一番だ。
ミリムさんが独自に研究、開発した自信作とのこと。
コーヒー豆も茶葉も品質が高い。生活雑貨も一通り揃えている。
良い店がご近所で助かる。
市場に店を構えれば、人気店になるだろう。
なのになぜ街外れに店を置いているか以前聞いてみた。
「うちはのんびりやってきたいからねー」とのことだった。
忙しいのは嫌らしい。
ちなみにご近所とあって、うちの家族とも仲がいい。
親友様が本を買うのもここである。
手数料はもちろん取られるが、希望に沿った本やおすすめの本を仕入れるので、
親友様のお気に入りの店だ。
「おまたせー。お代は金貨2枚ねー。端数はサービスしといたよ!」
金貨を出し商品を受け取る。
「まいどー。保存食買うならどこか出かけるの?任務?」
「7日ほどの任務に。2人は残る予定なので、食料とか買いに来ると思います」
「そっかー惣菜の準備しとくね。気を付けていってらっしゃい!」
手を振るミリム嬢を背に店を出る。
今日の晩御飯を考えながら家路に着く。
エルド君、7日も見れないのかー。寂しいなぁ。
2人残るってことは、エルド君と一緒に行くのはアイリスかイルミナか。
ウッドリアは7日も家を離れるのは嫌だろうし。
誰が行くかで荒れそうだなー。まぁ、いいところに落ち着くでしょ。
閉店ごろにどちらか薬を買いに来るだろう。準備しとこっと。
しかし2年かー長いなー。まぁ、今は見てるだけでいいか。
昨日、好きなようにされてたエルド君。
直接顔を合わせちゃったら、またニヤニヤが抑えられなかったわ。ふふっ。
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