第8話 タイミングの良い依頼

扉の外には1台の横付けの馬車。その馬車を守るように7人の兵士。

他国の騎士なら、鎧の上からサーコートを着ているのが普通。

着てないのだから兵士だろう。装備は槍4人と剣3人か。

そんな一団に向かって、片腕を持って引き摺ってきた生ゴミをポイっと放り投げた。

見事、馬車に命中。ガボンッと聞き覚えの無い音が鳴る。

そのあとに馬車が揺れて軋む音。

へー、馬車に鎧着た人を投げつけたらあんな音がするんだね。へー。

何が起こったか理解できないのだろう。兵士たちは呆気に取られている。

その間に副ギルド長係のジョルノさんを先頭に、ギルド職員と自由傭兵達が続く。

我に返った槍兵の一人が焦ったように口を開く。

「何をするか!我々は「うるさい」」

名乗りを上げようとするが、それはジョルノさんの言葉によって遮られる。

「警告1、剣を抜くな。槍を構えるな。囀るな。侮るな。警告は3度までだ。

警告を破れば殺す。明確な敵対行動を取っても殺す。

そこの生ゴミは我々の警告を無視した。よって我々の法に従って斬った。

ここは貴様らの国ではない。レオパルドン傭兵国家だ。

貴様らの法も言い分も一切通じない。

相手が商人だろうと、貴族だろうと、王族だろうと一切合切関係無い。

我々は、我々の法に則り行動する。我々の法に従い殺す。

あぁ、そこのお前、槍を構えたな。警告2だ。

微動だにせず黙って聞け。

貴様らに出来るのは生ゴミを持って去るか、

仲間の仇と我々に挑んで死ぬかの2択だ。

交渉の余地はない。

この俺、副ギルド長ジョルノ・ガルポの警告だ。以上」

低く怒気を混ぜた声で、啖呵を切り終え腕を組む。相手を睨んだまま。

さてお相手さんは。

扉を半開きにした馬車へ、剣を持った兵が必死な顔でこそこそと話している。

「囀るなと言った。警告3」

3度目の警告の一言に馬車の扉は閉まり、一団は足早に去っていく。

が、「持って帰れっつっただろオラァ!」

生ゴミをぶん投げるジョルノさん。

見事、馬車に命中。ガボンッと音が鳴り、一団の速度が上がった。

馬車が見えなくった所で空気が弛緩する。

「やー副ギルド長、いい啖呵だったぜぇ」

「副ギルド長、板についてたわよー」

「『この俺、副ギルド長ジョルノ・ガルポの警告だ』。クフフッ」

「よく噛まずに言えたなぁ。偉いぞ!」

職員と自由傭兵がジョルノさんを揶揄い、笑う。

「ああもう、さぁ仕事だ仕事。ほら戻ろう戻ろう」

と顔を赤くしながら職員達を促す。

ギルドに入りながら僕も一声かけよう。

「お疲れさまでした。ジョルノさん。決まってましたよ」

「ああエルド。ありがとう。4カ月の訓練の成果さ」

もっと格好いい言い回し考えてたのにな、とぼやきながら受付に戻っていった。

「エルド君、いいかしら」

エミリー嬢に声を掛けられつつ、腕を取られて任務説明用の個室へ連れ込まれた。


任務概要

任務:要人護衛

定員人数:2名

日程:3日

報酬:大金貨10枚

詳細:アルトルト王国クマルス男爵領都市クマルスから

クバイ男爵領を経由し、メルギド子爵領都市メルギドまでの護衛任務。

完了条件は護衛対象を依頼者まで送り届けること。

完了報告はメルギド市出張ギルドにて。

要人には騎士6名が同伴。併せて冒険者数名が同行予定。

依頼者:メルギド子爵アトロス・メルギド

特記事項:メルギド子爵領にて政変画策の動きあり。戦闘は必須と思われる。


「…さっきの馬車、メルギド子爵家の紋章が描いてありましたよね」

任務概要を確認し、笑顔のエミリー嬢に苦笑いで返す。

「ええ。任務の内容を説明するわ」

「いえ、さっきのば「任務の内容を説明するわ」」

はいはい、とりあえず聞きましょう。頷きを一つ入れ先を促す。

「おおよそは任務概要の通り。詳細な道順については護衛対象より詳細を。

指示権限は双方なし。

護衛以外は特に求められていないわ。

つまり任務遂行者は自由に動いて良いってことね。

全日程を含めて7日間ほどかしら。帰りは観光でも楽しんで。

オーソドックスな護衛依頼ね。ここまではよいかしら」

頷きを1つ。お互い一区切りに紅茶を一口。次が本題だろう。

「では、貴方の気にしている点について。『政変画策の動きあり』。

ここに関わってくる。

『メルギド子爵の叔父、アルボス・メルギドが当主の座を狙う動きあり』

との情報が入ってきてるわ。

具体的な計画は不明。ただ、御用商人と冒険者ギルドと第3騎士団。

この辺りを抱き込んで事を起こそうとしているみたい。

メルギド子爵も危険を感じて今回の依頼を出したんでしょう。

隣国お得意のお家騒動ね。

さっきの馬車はアルボス・メルギドが乗ってたんでしょう。

依頼に託けて、巻き込もうとしたのかも知れないわね。

まぁ、私達には関係ないでしょう?いつも通り任務を果たすだけ。でしょ?

『我々ギルドは、貴方が適任だと判断しました。是非、依頼の受諾を』」

最後に定型文で締め括り、エミリー嬢の説明が終わる。

お家騒動渦中の護衛任務かぁ。

相手は冒険者と騎士兵士、おそらくゴミ共も使ってくるな。

報酬は悪くない。3日で大金貨10枚。

前世の感覚で1000万円ほど。命が懸る仕事で1000万が

安いか高いか。人それぞれだろう。

しかし、お貴族様はお金持ってるねぇ。

隣国、アルトルト王国は王を頂きとした貴族制。

富が上に集まるんだろう。世の常だ。

あと問題は…定員2人か。

「確認です。定員1人は僕、あと1人は?」

「まだ未定よ。『エマグリーンファミリー』で埋めてもらって良いわ」

なら、姉君様か妹様か。

いやいや、それ以前の確認事項があった。

「そもそも、なんでこの依頼を僕に?」

エミリー嬢の笑顔が固まる。流れで押し通そうと思っていたのだろう。

「言っても怒らない?」

上目遣いでこちらを見るエミリー嬢。

「ええ、怒りませんとも」

あざといなぁ。と思いつつ笑顔で返す。

「丁度良かったから」

ん?。今度は僕の笑顔が固まる。

「今朝この依頼が来て、渦中の一端がギルドに来た。

丁度そこに居合わせた第5等級自由傭兵。

しかも依頼候補に挙がるだろうエルド君!

もうこれでマッチングしちゃおうって思って」

申し訳なさそうに言うエミリー嬢。

僕は思わず笑ってしまった。

「アッハハハッ正直者ですねエミリーさん」

確かにこれは丁度良い。ジャストタイミングだ。

それを正直に言うエミリー嬢。嘘が苦手な人なのである。

「分かりました。この任務、受諾します」

申し訳なさそうな顔から一転、笑顔になるエミリー嬢。

「ありがとうございます。『執事もどき』。貴方の成果に期待します」

これでギルドとの契約は成った。

「しかし」

「何かしら?」

「正直者のエミリーさんは可愛いですね」

ニヤリと意地の悪い笑顔を意識して言ってみた。

「っ!大人をからかわないの」

と膨れながら少し顔を赤くするエミリー嬢。

先ほどの仕返しは上手くいった。


あーあ。だから言ったのになぁ。

俺、カーチス・モズは同僚の死体を背負いながら思う。

舐めた態度取れば普通に死ぬって忠告したのになぁ。

仕方ないかぁ。傭兵は知っていても、

『レオパルドン傭兵』を知る機会はなかったんだろう。

「俺が傭兵に負けるかよ」と宣ってこの様だもんな。

負けるに決まってるんだよ、馬鹿だなぁ。

連中を殺るには、前提としてまず多対一に持ち込んでからだ。

まずいなぁ、こちらの素性もばれてるだろうな。

うまく立ち回らないと、死ぬなぁ。

それはいつものことか。道筋を探さねば。

ああ、お家騒動よ、早く終わってくれ。

我、平和な日々を切望せし。

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