第22話 適正者 その③

烈人は今日のヒカリのことを変だと思った。

毎朝勝手に上がって烈人の支度が終わるのを待つはずなのに、今日は家の前で待つこともせず学校に先に登校していた。

しかも話しかけられたのは5時間目である体育の直前ーーつまり先程だけである。

自分から話しかければよかったとは思うが、選択次第では床に埋まりかけないし、ある程度女子の中で人気のあるヒカリが傷つけば他のクラスメイトからの冷ややかな視線に耐えきれぬかもしれないので足が重かった。決して言い訳ではない。

「なー烈人ぉー今日あつくねぇ?」

同級生の会話からそんな声がよく漏れる。

確かに少し暑いな。というか今日も暑いな。レニアの天気予報どれだけ当たるんだよ。

「ぁ゙……ぁ゙っ゙ぃ゙……」

走っていた同級生の一人が倒れ込む。

「お、おい!大丈夫か!?」

烈人が駆け寄り、彼を観察すると、彼の身体にびっしょりと汗が滲んでいた。恐らく熱中症による脱水症状だろう。早く安静にさせなくては。

「先生!俺、こいつ保健室に連れていきます!」

烈人は倒れた彼を担ぎ、保健室へ直行する。

といっても保健室は位置的に校庭とは真反対の校舎にあるので、生徒用玄関から入り廊下を歩いて連れて行った方が早いのでそうする。

保健室に着くと、運がよかったか保健室の先生がいたので職員室に呼びに行く手間が省けた。

「じゃあ、あとはお願いします」

「は〜い、任せてね〜」

彼を保健室の先生こと長澤先生に任せ、校舎に歩きだしたその瞬間。

ーーーーーーゾクリ。

烈人の背筋を悪寒のようななにかが走る。

なにか嫌な予感がする。

そして今起きて嫌なことはーー

その時、強烈な閃光が校舎中の窓に入る。

「ーーッ、ゼクリフォスか!」

嫌な予感というのはつくづく的中するのか、と皮肉を心の中で叫びながら階段を駆け上る。

途中、校庭の見える窓を走りながら見ると、ゼクリフォスが校庭で暴れていた。しかも2体。

「クソっ!」

二階、三階、四階。

次々に階を登り、今度は廊下をかけてゆく。

一つ、二つ、三つ、四つ。

四つ目の教室の扉を開け入ると、烈人のザックから僅かだがアラーム音と赤い光が漏れていた。

ザックからマテリアルレイカーを取り出し、腕時計を左腕につける。

『烈人君、ゼクリフォスです!変身を!』

つけた途端、通信機がオンラインになりホログラムのレニアが話しかける。

「あぁ、分かってる!」

レニアにそう告げて、通信を切る。……なんかさっきやたらとレニアの通信に環境音が聞こえた気が……

いや、そんなことよりも目の前のゼクリフォスを倒さなくては。

マテリアルレイカーを右手首に装着する。

〘マテリアルレイカー!〙

すばやくベルトが烈人の手首とマテリアルレイカーを固定し、アラーム音は待機音へと変わる。

「よし……いくぞ!」

烈人は教室のベランダから飛び降りながらフレイムのマテリアルコアをマテリアルレイカーに装着する。

〘バーンレッド!〙

機械的な待機音が焔の如く激しいものへと変わる。

「フレイム、クロス!」

マテリアルコアを左手でクロスさせる。

マテリアルレイカーの表面装甲が展開し、焔の渦が烈人の身体を包み込む。

やがて焔の渦は烈人の身体を縮め、ボディスーツやアーマーへと形を変える。

〘Flame 01 Red Transformation Completed〙

発音のいい音声とともに焔の渦が弾け飛ぶ。

そこにいるのは赤き髪に緋色の瞳。

幼き身体に機械的なアーマーを身に着けた少女ーー

そう、バーンレッドである。

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いきなりTS変身ヒーローにさせられたんだが MasterMM @Mastermm

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