魔女の物語 4
「彼女の『願い』は僕の魔法じゃ対価が足りないんだ! おまえだって、できはしない! 僕は、彼女の魂で唯一彼女を救うために
自分自身さえも誰にも視認されない存在。ただ
結果。
その『願い』は、願った本人に『
暴力は暴力へ。願いは願いへ。その結果が……この世界だった。
人間は
魔女がここまで
責めているのは自分だ。おまえのせいで彼女は苦しみ、そしてこの
もうひとりの、自分。
彼女にやすらかにいて欲しいと願った自分。
そして、
「おまえのしようとしていることを、僕は
「ほかに方法がない! だから実行している!」
「夢に沈めればいい。心静かに、すべての
「うるさい黙れ!」
とうとう
「懲りない。本当に懲りない。『自分』を攻撃してどうするんだ?」
「…………」
「大丈夫だ。彼女が生きる運命は変わらない。ただ目覚めないだけだ。どうだ? これなら宿命を変えることもない。夢の中なら、彼女の願いは『必ず叶う』」
「それは、叶ったとは、言わない……!」
「できもしないことをしているおまえより、まともだ!」
断言するのは、自分と同じ姿の者だ。ここまで感情豊かな自分の姿というのも珍しい。
「『愛も恋も』知らないおまえのハリボテの『夢』に、彼女が救えるわけないだろっ!」
そうだ。夢なんてものは、しょせん、ただの願望のまぼろし。
愛以外の感情ならばすべて『はねかえす』機能で魔法を使っていた魔女には、決してできないことなのだ。
愛を知った彼女に、愛を知らない者の魔法は効かない。
「『虹』の魔女、ウテナ。『反射』の魔女、ルイン。『至高』の魔女、エトワール。すべてがおまえで、おまえじゃない。おまえはまだ『名』がある!」
「やめろ……」
「『夜』の魔女、新星の名を持つ……彼女に混ざった『神』」
「だまれだまれだまれ! 黙れ!」
「おまえはボク。願いを叶えられない、星の名を持つボク」
魔女は目を見開き、それから
「認めない。与えない。許可なんて出すものか! おまえはひとりで消える! 消えろ!」
「……彼女の願いには、必要なことだ」
「しつこい! 本当にしつこい! なんて
「そんなもの、いらない」
なんだと、と魔女が動きを止める。そして絶望に顔を染める。
たった一回だ。たった一回のために、こいつ。
「狂ってる……たった『一回』のために、そこまでするのか。とんだ道化だ」
「約束したからな」
「はは。あ、そう。じゃあたった一回のチャンスを、使ってみろ」
魔女は
「この『孤独』の宿命を持つ僕ごと、『否定』するがいい」
緑に
魔女は小さく笑う。
「おまえのそれは――――『愛』だとも」
なにか答えかけた相手を、魔女は
「エ、トワ……ール……僕のために彼女がつけてくれた名前」
愛おしそうに
さあ、最初で最後の好機だ。
*
魔女は
美しい白銀に近い金髪を揺らし、ある男に声をかけた。
「願いを叶えてあげる」
男は魔女を押し倒した。
「ははっ。なに
魔女へのすべての事象は、相手に反射してしまう。
ありとあらゆる暴力、攻撃、悪意、すべてが、すべてが魔女から本人に戻っていく。それは
想像しただけで。思い
魔女はその『未来』を相手に『
兵器で周辺が焼け野原になろうとも。
幼い子供を使った人間爆弾であろうとも。
すべて反射してしまう。
一時期は、怪談話のようなものにまでなってしまった。なにせ魔女の姿をきちんと認識できる人間はいなかったのだから。
美しい女であったり、美丈夫であったり、
相手の望む姿を持つ魔女は、どんどん減っていく人間の数に不思議でならなかった。魔女がなにもしなくても、人間は数を減らしていったからだ。
激しい気温変化が起こり、嵐が起こり、雨が絶えない日々が続き、日照りがおさまらない天が繰り返されても、魔女だけはそのすべてを反射し、存在し続けた。
そして、ほんとうに人間の数がほんの少しになったとき、であった。
小さなこどもだった。
洞窟で震えながら
魔女は言った。
「願いを叶えてあげる」
「……おみず、ほしい」
言い終えた瞬間、こどもの肉体が破裂した。肉体の中の血液が、その場に散った。
ふと疑問になった。
自分に幼少期があった記憶がない。いつからこんな姿なのだろう?
魔女は自身の魂の記録を読み始めた。色んな人生があった。脳など存在していないものや、魚、鳥だったことも、野生動物だったこともあった。
だが。
途中からいびつにそれが
そして知ってしまった。自分は人間でありながら、そうではないと。
足りない感情を探してひたすら探して、そこに降り立った。
願いを叶える魔女は、とても
けれど結果はどうだ? 彼女の願いに
魔女は願いを叶えなかった。叶えることが、できなかった。
彼女を夢から
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