魔女の物語 3
魔女は言う。
「『約束』という対価を払った……それは、君がただ、そう、ただ…………そうしてやりたかっただけだからな」
「おまえはひとじゃないんだ。人間じゃない。愛も知らない。恋もわからない。無駄に走り続けているだけだ。おまえはしぬ。消滅する。おまえのせいだ。だけど」
だけど。
「僕も、その感情だけは……手に入らなかったからな。彼女が
「彼女に夢を見せていたのはキミだな」
「そうとも!」
魔女は
「この魂を
「『助けてやる』と言って、『ゆめ』を流し込んだ。夢の中は心地よく、残酷で、どうせなら……死ぬまでそうしてやったほうがいいと思ったからだ」
「…………」
「僕は魔女。魔女と呼ばれた、最後の人間。夢を見続ける、魔女。ゆめの魔女。
視線をゆったりとこちらに、
「『おまえ』がここに現れた時のみ。『おまえ』が絶対に勝てない、奪えない、夢の物語の主である、この僕…………魔女、ウテナ・ルイン=エトワール。
新星の名を持つ、夜を
激しい憎悪、嫌悪が渦巻く。周囲の空気だけが震える。彼女は気づかないほど少しだけ地上から浮いている。自身の起こすことの反動を、少しでも
「本当は、本当は! 木っ端微塵にしてやりたい! 僕が彼女の魔法使いだったのに! 静かに眠らせてやりたかったのに! せっかく、せっかく、家族から小さな愛を受け取ったのに。
目覚めた先がさらに苦痛だらけなんて! 言えるかよ!」
髪を振り乱して、魔女は悲鳴のように
「目覚めたらすべてが起こっているほうがいい……死ぬとしても、そのほうがいい。僕が感じたその愛情は、まぎれもない、愛と呼ばれる……たいせつなものだ」
まぶしくて、だいじで、だれもがほしがる……手に入れたいもの。
それなのに。
「おまえが、約束なんか。
僕の夢を、僕の魔法を、おまえが」
おまえが。
「よくも、よくも、ぶち壊したな!」
怒号で片耳で吹っ飛ぶ。血が流れ落ちる。
「そりゃあ壊せるだろうよ。おまえは人間じゃないもんな。だって、僕も」
僕も。
「『おまえ』なんだからさ」
ほとんど、
「彼女の一部であり、おまえでもある。いや、おまえだな。僕はおまえだ。だから、こんなところで、こんな世界を『理想郷』なんて呼んで、孤独に、ここで眠る宿命を持っている」
こんなところのどこが理想郷だと、彼女は不快そうに言い放つ。
「『おまえ』だ。『自分』に勝てるわけねぇだろ、ばーか」
笑った魔女が
ほかの生命や事象になるべくなにかを起こさせないための、魔女が自動的にやってしまう事柄。
「チッ。きたねぇ。よわい」
人魚は王子に恋をした。どうしてももう一度会いたくて、人間の
それは奇跡に近い魔法。
魔女は声をもらうと、歌声をもらうと言った。けれど。
それが本当の対価ではなかった。
奇跡の対価は、人魚の恋、苦しみ、
泡となって消えるその瞬間までの時間を魔女は対価とした。
そして、『ゆめ』を人魚に見せた。人間の
魔法は万能ではない。
人魚にとって一番の価値は『声』ではなく、その一途な、『恋』。
恋に
「やあやあ、まぁた来たね。振り出しに近い状態に戻った気分はどうだい?」
「完全な振り出しじゃない」
「まぁそうだよな。彼女たちから色んなものを奪ってきてるんだから。でも、僕はもう、渡さないぜ?」
「…………」
「僕が怒ってる理由も気づいてるくせに、ほんとに表情変わらなくなったな、おい」
「これが本来のボクなのを、おまえは知ってるだろ」
「そうさ。おまえは人間のふりをして、彼女に近づいたんだからな! おかげで、僕もここに
魔女は
「ここだって、最初はこんなんじゃなかったんだ。人間も
それを壊したのは、おまえだよ、おまえ」
「『おまえ』が、この世界をこうしたんだ。人間を排除するために存在してるおまえが、そうしたんだぞ。ちったぁ懲りた顔しろってんだよ」
「人間は自動的に滅びた……『魔女』が居たから」
「ああそうさ。僕の本当の姿が見えるやつなんて、いないからな。おまえにも見えてないのはわかってんだよ」
魔女は奇跡を起こす。魔法を使う。奇跡を起こすためにそれに応じた対価を相手から、『奪う』。
『夢』の『
「これは『孤独』の物語。だれにも理解されることも、して欲しいとも望めない物語。
「
「知ってるさそんなこと!」
魔女は
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