第六幕
魔女の物語 1
魔法使いは静かに顔をあげた。
次の幕は魔女の物語。
誰かから見て
誰かから見て
それは別の誰かには、
相反する感情が渦巻くのが、人間。こころ。
さあ、第六の幕が無情にも上がった。
***
ちちち、とどこかで鳥が
強烈な極彩色。目が痛い世界でエトワールは立ち尽くす。どうせ待ち構えている。
魔女はこの世界で唯一の人間。植物が王者となった世界の中で、
いや、この世界の人間を蹴散らして、この理想郷で夢を見続けている
「やあやあ。来たね」
この森の中、
「懲りない。本当に懲りない。学習しない。何度やり直しても、どれだけ繰り返しても、君はここでまた、
ひどく不快な声音。人間の『
「僕は協力しないとわかっているくせに、何度も何度も何度も何度も、この罠の中に飛び込む……でも、だからこそ、僕はこうして
「…………」
「また、僕から奪っているね。懲りない。取り戻す価値はないし、君が本当に奪いたいものは譲らないのに、しつこい」
「…………」
「一応学習はしてるのかな。そう見せかけているのかな。僕の能力が欲しくてたまらないのに、なかなか弱体化しないからほかを先に片づけているのにね」
黙れと言いたいが
「おやおや。怒りの感情をどこで奪ったんだ? どんどん人間くさくなっていくね。元の姿に戻れないのはわかっているけど、そこまでする理由がわからないなぁ。気軽に約束なんかするから、こんなことになっている……自業自得だけどね」
相変わらず嫌味なやつだ。
「ねえ、僕のボク。夜を
誘惑の声に惑わされてはいけない。頭ではわかっているのに、何度繰り返してもこの魔女には勝てる気はしない。だから
振り向いた瞬間、エトワールの肉体が
「……よわいなぁ」
「やあやあ。来たね」
また失敗したようだ。強烈な緑の匂いが鼻につく。
「今度はあちこちで寄り道をしたのかな? ずいぶんと、姿が変わった。
「…………」
「会話をしてくれないのは寂しいけれど、あれ? その類いの感情も奪ってきたのか。可哀想に。苦しそうだ」
「…………」
「今度はなにを奪っているんだい? 毎回毎回、どうでもいいものしか奪えないくせに、懲りない。僕から先に攻撃されないからって、ゆっくりし過ぎじゃないのか。
星の名を持つボク。その名前を使う限り、僕には勝てない。奪えない。でも、今回は奪えるかも。挑戦してみるだけ、してみたら?」
殺気を
「……懲りない。よわい」
「やあやあ。来たね」
もはや何度目か、記録するだけ無駄な気がしてくる。
「今回は手加減してあげてもいいよ。だって君は僕だから。懲りない懲りない、どうしようもないボク。真っ先にここに来たのに、何度も何度も僕に負けて、最初の頃の
あの手この手で挑んでくるのに、無駄なのに、懲りない。本当に懲りない」
「…………」
「また姿が変わってる。元の形がなくなってるじゃないか。いくら人間ではないからって、
そういうおまえは、あの手この手でこちらから攻撃させようとするくせに。
すべてを持っているのに、
「気づいているのに僕に勝てない。悔しいか。わかっているのに僕から奪えない。もう諦めてもいいんじゃないか?
まあ、諦めるわけないよね。人間ではないんだから。もう対価を払ってるから、やらなきゃいけない。
君の探しているものは手に入らないのに、なぜそんなに必死になっているんだ? よほどの間抜けじゃないなら、そろそろ……勝負にすらならないことを理解しろ」
今回こそは。
「そんなこと、
わかっているくせに。
「『結果』は『原因』からすべて
終わりへと向かっていく道が
「…………」
「
「…………」
「誰もが、望む。幸福でありたいと。
そんなことが実現できたとする。そうすればそこに『残る』のはなんだ? きちんと理解できていないのは人間たちだ。
それのどこがいいんだ? のうのうと幸福に生きていればまた別の誰かが
…………とまあ、完全に人間のご都合主義の物語の話を
「…………」
「すべての
君が見ている彼女だって、こんなに魂に触れていれば、『どれ』が君が好きになった彼女かなんて、わからなくなってるんじゃないかい?」
では。
こんなところまで来て、運命を変えようとするのはどうして?
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