案山子の物語 3
町の東側には大きく切り立った
あれらが『スケアクロウ』が退治するべき災害。遺伝子をいじった果ての、原形をとどめていない、
「きおく? とか、なんかみせられてもよくわからないと思うし、勝手に使っていいから」
「……キミ、
「
満面の笑みに、影法師は苦い表情を浮かべる。
「あの
「まあちょっと多いな。時間かかりそう。でもオレ、『スケアクロウ』だから大丈夫だよ」
「……『適正』って、遺伝子の適正でしょ。キミ、まだ十歳にもなったばかりじゃないの?」
「
「オレの物語? を使うといい。すべての害ある存在を排除する、番人の物語を」
にこやかに微笑みながら
「オレはシュテルンの物語が好きだ。だって、たとえそれが
ばかなオレでも、敵を倒すだけのオレでも、おもしろいって……そのうそを、信じられる」
「…………」
「しあわせな最後が必ずあるわけじゃないから、なんだオレと一緒だなって思うんだ。
だからオレは、オレが人間なんだって……信じることができるんだ」
優しく笑うタハトは、ぼろぼろのマントを
他者から使われ続ける、最後の砦とされる
「オレはシュテルンに救われてる。だから、どうか、救ってやってくれ。願いを叶えてあげてくれ。
オレはタハト=スケアクロウ。オレは寄ってくるありとあらゆる『災厄』を
しのびよる破滅も、病も、
背負っていた大きな鎌を片手に、細身で小柄な少女はただ笑っていた。そこになにかの思惑はない。まっすぐな感情だけだ。
「さよなら、魔法使い。あんたも、シュテルンが
「…………」
「オレはばかだから、難しいことはわからない。でもさ、あんたはシュテルンと一緒に逃げても良かったのに、そうしなかったんだよな。すげぇよ」
「そんなこと……」
「オレみたいに
小さく
「じゃあな、魔法使い。シュテルンはあんたに、きっと救われてるよ」
そう言うなり、弾丸のように飛び出し、崖下へと跳び下りた。着地するなり、地表すれすれを背を低めて駆けていき、人間を襲おうと迫ってくるありとあらゆる獣たちをその鎌で命を
その様子を
崖下で血と肉片を
「……なにも知らないくせに」
あんな顔で笑って。この生物たちを生み出した元凶たちにいいように利用されて。
エトワールは目を細めた。
「タハト……。その、他者に使い続けられる『酷使』される宿命を持つ星よ。同じようにボクも使わせてもらう」
そう呟き、エトワールは瞼を閉じて姿を消した。もうここに、用はない。
*
ぼろぼろになりながら、タハトは
(オレは特に好きなんだ。
シュテルンがたったひとつだけ語った物語が)
愛でもなく、恋でもなく、たった一人の男が、あいを知る……いや、その『恋』が『愛』へと
知恵を求める自分とは違って、物語という空想の世界の中で、見えることもない、たしかめようもない、そんな
夜の神が、あいを知りたくて
「どけぇぇぇえええええ!」
勢いよく吠え、タハトは力任せに薙ぎ払う。世界を守る結果になっていても、そんなの関係ない。
オレは、オレのやるべきことをしているだけだ。
ああそうか。
なんでシュテルンのお話がすきなのか、わかった。
そっか。
「はは、は」
思わず
ヒーローに、なりたかったんだ。
だれかを助ける力はないけど。
だれかが悲しむモノを
ぶんっ、と
みているか。
みているか?
シュテルン。オレも、おまえの『物語』になれたか?
賞賛の声も、応援の声も、なにも、きこえはしない。
だってオレは、やるべきことをしているだけだ。それがオレがオレであるということだから。
それでも。
それでも。
かっこいいヒーローに、だれだって
まっすぐに空を見上げて。
色んな力を借りて、いま以上の力を
なぎって名前だっけか。聞こえているか。聴こえているか。
星の名を持つオレはここにいるよ。ここにいるよ。あんたを助けたかった。そんなヒーローになりたかったよ。だけどさ。
「それは、あいつにゆずるよ。だって、あんたの手をさいごまで、きっと離さないからさ」
明るく
「おおおおおおお! 消えろおおぉぉぉおおっ!」
すぐに忘れられてもいい。次のスケアクロウは現れる。だけど。
この瞬間、今だけは。
この世界の英雄は、このオレだ! 太陽の光を
だからあんたも、信じろ。願いは、かなうよ。だって、ヒーローのオレの力も貸すんだ。
片足を大きく地面に踏み込む。ずしん、と振動が大地に響いた。左腕に
そこにいたのはまぎれもない、ひとが望む英雄だった。
オレを見ているだれかの希望に、ヒーローに、なれればそれでいい……!
「ははは! あんなの、『恋』と呼ぶには、まぶしいだろ!」
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