配達人の物語 3
「こんにちはですぅ」
突然夜空から、浮いているソリからひょこ、と顔を
「えーっと、顔の確認完了。あのぉ、あなたここでですね、死ぬんですぅ」
「は?」
「は、じゃないですぅ。マジですぅ。で、あなた、そこそこ前世でプラス状態なので、苦しんで死ぬか、苦しまないで死ぬか、選ばせてあげますぅ」
空から女の子が変なことを言っている。
「プラスが多い人だけにしてるので、
「……すごい夢だ」
「あはは。そう言う人多いですよねぇ。いいですよぉ。じゃあ苦しまずに死んでくださいぃ」
じゃあいきますねぇ~、とステラが巨大な針を取り出して振り上げる。さすがに男がぎょっとして、逃げ出そうとするが、次の瞬間には心臓を
「おしまい~!」
ずずず、と針を抜く。針の先には奇妙な炎が
「おお、まずまずの数になりましたね。えーっと、魂の
よっこいしょ、と袋を肩に
「ぎええええ! 恥ずかしぃ~!」
ばたばたと足をばたつかせるが、自身の
「! さっきの人間、この人生でもまたプラスを作ったってことですかぁ~? 重いんですよぉ~くそったれぇ~!」
引っ繰り返った虫みたいな
「大丈夫?」
ひょい、と顔を
え、え?
「ぎええええええええ!」
つんざくような悲鳴が、静かな深夜に響き渡る。さすがに相手も驚き、動きを止めていた。
広大な地を国に有するこの場所でよかった。もっと密集地とか、住宅街だったら声をききつけて誰かが来ただろう。幸運なことに、ここにいるのはすでに死体となっているものと、古い自動販売機。そしてガソリンスタンド。男の乗って来た車だけだ。だからこそステラはタイミングをはかって男に声をかけたのだが。
つば広の黒いとんがり帽子と、黒のローブ姿。丸眼鏡までつけている。
「へんたい~!」
ステラは袋の上で相手を
「えっと、変態ではないんだけどね」
「変態じゃなかったら変人ですよぉ! なにこんな深夜のガソスタで、奇怪なコスプレしてるんですか!」
全力で嫌がられしまった変態は、
「あの、この状態で言うのは卑怯かな~とも思うんだけど、キミ、危ないからこのまま話すね」
「はあああああ?」
「死神が相手だから、いいよね」
「いいわけないでしょ! 女の子がこんなに頑張ってるのに助けもしないで眺めてるなんて、とんだ変態じゃないですかぁ!」
「そういう趣味はないんだよね……。純粋にキミ、ボクの
そこでステラは動きを止めた。死神、とこいつ、言った? それに。
「…………あなた、もしや」
「べつになにかしようってわけじゃないから。ただ、お願いがあって」
「…………へぇー」
「キミにとってもいい話だと思うんだよ。聞くだけなら無料だよ?」
「まあいいですよ。なんかあってもぶっ飛ばせばいいってことがわかりましたし」
袋の上で見上げる状態のまま、ステラはすん、とした顔で相手を
「未来のキミの『願い』を叶えるために、力を貸して欲しいんだ」
「…………みらい? どちらのだれさんですか?」
「
「ああそう、そうですかぁ」
「あ、あれ……」
「ふふふふふふ。へぇ~、なるほどぉ~」
「協力しますよ。だから起こしてください。あ、なんかしたらぶっ飛ばします」
変態は袋の上からステラを抱き上げて、地面におろす。ステラはふんと鼻を鳴らして、片手を腰にあてた。
「わたしの
「一応エトワールって名前が」
「そんなのどうでもいいですぅ! 延々と
むちゃくちゃ怒っている……。
エトワールは見下ろした先のステラが、可愛い顔に似合わずにとげとげした言い方をするので、なんともいえない表情になっていた。
「用事が済んだらさっさと消えてください。あなたと接触したとバレたら減給も加わりそうですし!」
「あ、ありが」
「お礼はけっこうですぅ! あなたにとってはかなり危ない橋を渡ってここにいるんでしょうし、まあ、いま見た記憶での彼女が延々と嘘をつき続ける理由もわかりました。
いいですよ。わたしの『
「……助かるよ。ステラ=コメット」
「あぁあぁはいはい。もういいですよ。しっし! 消えてください、ほんと」
「キミは二番目に手強いと思っていたから……」
「これでも、少しは魔族ですからね。クォーターですけど。あと、わたしの名前を正確に把握しているのもポイント高かったですよ」
「うん。十一の可能性を秘めた星」
「一応ふざけた上司のせいで、死神業ですが、『サンタクロース』って名称にされてるので、ちょうどいいでしょう。
シュテルンに、いいお土産ができましたね。わたしからの『贈り物』です、サンタクロースなんで!」
嫌味ったらしくちくちくと攻撃するような声にエトワールが小さく
残されたステラは視線を
とんだ変態だった。命知らずと言ってもいい。
「……『愛』と呼ぶには、まあ、がんばってるで
そう言いながら、サンタ袋と呼ばれる魂収納袋をいつものように
ぽかーんとしたあと、ステラは怒りに足をばたつかせた。
「早く元の姿にもどせぇ~!」
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