騎士の物語 3
両腕が痛い。
「アオバラ様、どちらへ」
「残りはみんなで片づけられるよね。そこそこ生かしてあるから、適当に
人間を殺す時に興奮状態になったり、精神的にひどい負荷がかかる者は多いだろう。だがバラシリーズはその感情が特に
交渉。手を結びたい。友好関係になりたい。様々な言い分を使う国も多いが、こちらにとっては魅力なんてものがなにもない。むしろ、攻め込まれれば好都合でもある。
どうしても女しか生まれない国なので、男は必要だ。だが、この国の女たちは、男で遊ぶことはあっても、愛し、恋することはまったくない。真似事をすることはあっても、そういう気持ちを
血でべたべたするので早く頭から水でも被ろうかと、用意されている部屋へ向かっていたアオバラは、足を止めた。
……ヤバイ。トンチキな
敵意、殺意はない。つば広のとんがり帽子。足元まで
「やあ」
うお。話しかけてきた。
周囲を
「ボクはエトワール。大・魔法使いさ」
やばい。頭の中もトンチキだ。
アオバラはやれやれという顔でいたが、剣を持っていないことに、しまった、と少しだけ思う。手加減できるだろうか……。いや、しなくていいのか。
「わぁ~。殺す気満々だね」
「え? 殺していいからここにいるのでは?」
しごく当然というようにアオバラが答える。
「ちがうちがう! ボクはキミにお願いをしに来たんだよ」
「はぁ……」
おねがい? 仕事以外でもう動きたくない……。
自称・魔法使いはすごく困ったように
「場違いすぎるよね……。色んな意味でやりにくいな……」
「えーっと、できれば手短に。疲れてるんで」
「あんな見事な戦闘だったのに? 舞いでもしているみたいだったよ」
「はぁ。よく言われるけど、あまり動きたくなくてああなってるだけなんで」
「そっか。じゃあ手短にね。未来の『キミ』の願いを叶えに……来てるんだけど……。どうでもよさそうだね」
地味に足、いたい。
「うわっ、いきなり攻撃してきた」
「いや、殺していいのかと」
「ダメだって! せめて話を聞いてからにしてよ。それにキミの攻撃は当たらないからね」
「…………」
「毒とかも無駄だよ。あと、ここでは
ぎりぎりと足に力を入れ続けているアオバラの様子に、エトワールが
「なんでそこまで殺そうとするんだよ! 疲れてるんじゃないの?」
「早く寝たいので」
「し、正直者だなぁ……。じゃあそのままでいいよ」
エトワールが肩をすくめた
「…………つかれる。なんだ、これ……」
他人の記憶だ。自分ではない誰かの瞳から見た世界。え、ほんとに気分悪い。それに、アオバラにとってそれらはすべて『必要ではない』ものだ。邪魔なものだった。持っていても、百害あって
「はぁー……」
心底面倒だというような長い長い
「理解はできないが、協力はする」
「ほんと?」
「これ以上疲れたくないので」
「……素直だね、ほんとに」
そもそもこのトンチキが言っていることが真実かどうかなど、どうでもいい。仕事以外をしたくない。こいつの相手も面倒で、したくない。
「その代わり、今の変な情報は消して欲しい。戦うのにも、生きるのにも邪魔になる」
「……な、なるほど。わかった」
立ち上がるのも面倒になってきたなぁと考えながら、勢いをつけて立つ。かなり力を入れていたためか、左足がよろめいたが右足を素早く少しさがらせ、
エトワールが「お見事」と笑う。
「戦場を舞う、青いリコリスの異名を持つ王を守る剣。命令に
『騎士』ユウヅツ=アオバラ。キミの『
「どーぞ」
適当な返事をしたが、「ありがとう」と小さく言うなりトンチキは消えた。立ったまま夢でも見ていたのかと思ってしまうが、少しだけ、ほんの少しだけ。情報の
「ふむ。『恋』と呼ぶには、
夢ということにしよう。アオバラは考えを切り替え、着替えるために部屋へと急いだ。
*
後日。
「きゃー! ほらほら、みんなが見てるー!」
なぜか同僚に花街に連れてこられていた。制服姿なのに……。
「あー、ほんといい感じ! どの男も見惚れてるし! この
「はぁ」
確かに視線を感じる。
「あっはは! あの目! あんたを組み
「は?」
なにを言っているのだ、この同僚は。勝手に騒がしいし、もう解放して欲しい。夕飯を
「そういうのが好きって男は多いのよ? 征服欲が満たされるからかしらね~?」
「そんなことされたら、殺してしますますが」
「まあそれはアタシもかな~。調子に乗るやつ多いから、ついつい、ね」
「…………」
もうどうでもいいから帰りたい。はぁ、とアオバラは深い
今日もこの国は平和だ。
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