第三幕
騎士の物語 1
魔法使いは旅人と出会い、戻って来た。
魔法使いは涙を流し続けていた。
幕引きは確かに悲しいものだ。
けれどもやるべきことは、もう決まっている。
すべて、まだ進んでいる最中だ。
だから。
さあ、次の幕へと進め。第三の幕は、もう上がっている。
***
すべての男は等しく家畜。強いて言えば肉壁。
団長の声に全員が一斉に姿勢を正した。全員が藍色の制服を身につけている。その惚れ惚れするような中を、行進していく人物がいる。
この国の宝であり、誰もが
真っ赤な
アオバラは自身の持つ細身の剣を胸の前に片手で
完全に女王が城へと入って姿が見えなくなると、団長の命令で剣をおろす。
「隣国からの圧力が増している。国境付近担当の者たちは気を引き締めるように!」
とてもよく通る声だなぁ、とぼんやり思ってしまうアオバラは、腰にある
「あー! やだぁー! めっちゃヤダァ!」
すぐ横で今の今まで整ええていた髪の毛を
「ねえー! 代わってってば! 今度奢るからー!」
「もう
言外にやだ、と断ると、その場でブリッジでも決めそうな顔をしてきた。そんなことをされても、嫌なものは嫌だ。
「家畜小屋掃除とかやだ!」
「そんなこと言っても、豚や鶏じゃないんだから……」
「そんなの、どっかの傭兵に……だめだね。うん。盗まれるよね。ごめんね」
「わかったなら頑張って」
「ぎゃー! くそったれ! おまえの当番の時に代わってやんねぇぞ!」
遠吠えを聞きながら、アオバラは本日の勤務を思い
小さな
資源が豊富なわけでも、作物に恵まれているわけでもない。特徴なんてもの、ほんの少ししかないのではないだろうか。
隊服の喉元がきつい。そろそろ少し
「アオバラちゃーん! ひゃっほー!」
「ひゃ……おう?」
「ひゃっほー、だよ?」
「あ、あぁ、はい。そうですか」
すごい帰りたい。
同性から見ても愛らしい顔立ちに、少しこてでも当てて髪を軽く巻いている髪型といい、なにより……その長い
「かわいいお顔なんだから、お化粧してみようよー? そしたら
「また
「んふふ。いいのいいの。ひとを殺したあとって、すっごく興奮しちゃうから」
ぺろりと舌なめずりをする女性に、
「そんなに男が好きなら、家畜小屋当番、代わってあげたらいいのに」
「やぁよー。あいつらは王様の所持品だし、使い倒されたら城の連中が使うじゃない。その頃は使い物にならなくなってるって」
「でも花街の男も、似たり寄ったりでは……」
「まあ芸を売ってるやつは一人もいないけどさ~」
ほらやはり。どこの
「パン買って帰りたいんです。今日はもうこれで終わりなので」
「だったらお姉さんが
「花街にはいきません。眠いんです」
早朝から整列させられたのだ。非番なのだからもう帰って
同僚のしつこい誘いにうんざりする。そもそもわざわざ男漁りに行く神経がどうかと思う。
「べつにパンとやっすい紅茶くらいでいいんです。娯楽品には興味ないんで」
「あははぁ~。でも一回くらいは付き合ってよね。べつに買わなくていいのよ。あんたを見せびらかしたいってだけ」
なにが面白いのか、彼女はニヤニヤしている。
アオバラは彼女の横を通り過ぎて、
通りを行き
パン屋のドアを開けようとした瞬間、すいっと
「先輩! なんで避けるんですか!」
「いや、普通に反射で」
「いったぁ」
受け身をとったからそれほど痛いわけはないはずなのに、後輩である彼女は大げさにそう言いながらすぐさま立ち上がった。
「伝令です」
「非番なんだけど」
「ちょっと面倒なことになって、先輩にも召集がかかったんですよ」
なんてことだ。
心の中でショックを受け、アオバラは激しく落ち込む。目の前にはパン屋。なんて……ことだ。唇を少し「へ」の字に曲げて「わかったよ」と返事をする。
「もー。そんな顔しないでくださいよ。好きでここまで来たんじゃないんですからね、わたしも!」
「他のバラシリーズでいいんじゃないの……?」
「シロバラ様とクロバラ様は陛下の護衛をしてますし、アカバラ様は別の任務中。強い順に当たって、そして非番の先輩が選ばれたってわけです」
「…………」
「終わったらなんでも
「みんなそう言って、約束守ってくれないじゃん……」
「それは先輩がほとんど首都にいないから……。ああ! 早く早く! もう移動しないと!」
「せ、せめてパン一個だけ買わせ……」
「先輩走って!」
「……はい」
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