旅人の物語 2
「どう、かしら? あんなに
「……そこにもう、キミの魂がなかったからじゃない?」
「あの
「…………」
「月までおいでっていったら、ほんとに来ちゃうんだもの。わたしの
器を連れてきたから、てっきり弱くなった電気をなんとかしたいのかなっておもったの。ときどきわたしが遠隔で電気を送っていたけど、もうしんでるから、どうしても電気がすぐ消耗されていたの。だって、あんなにあの
「その男は、まんまとキミに
きょとんとしたまま、ドロシーは首を
「
こどもができなかったから、気づいたのね。そうねそう、きっとそう」
やっと正解を見つけたと言わんばかりに、喜びを表現するように鳥籠をひどく激しく揺らす。
彼女を閉じ込める
広げた翼が
彼女はこの城の主として君臨していたが、何十もあった衛星の数も減っている。知的生命体を月に呼び、時には運び続け、
保管していた地上の
男の愛が、彼女を壊した。
いいや、彼女は愛に関心を寄せたに過ぎない。認識できないものを、男が何度も何度も、あるように言い続けたからだろう。
彼女の情報では、人間の愛というものは生命の存続には必須なものではない。そもそも、恋も愛も、感情に呼び名をつけたもののひとつに過ぎない。
やはり取引をする二番目に選んだのは、正解だった。
「キミの知りたいこと、教えてあげる」
「えぇっ? ほんとう? そんなことできるの?」
「できる。ボクは約束したから。未来の彼女の願いを叶えるために、ここまで来たんだから」
それに。
「ボクは大魔法使いだから。男の言う『愛』ではないけど、キミの欲しいものは、あげる」
ドロシーの視界が白黒だったものから一気に鮮やかになり、色を、認識した。情報を理解できたのを喜ぶ
まってまってと、ドロシーは
器を動かして男を喰らい、心臓を
「いや、いやいや! いやぁ!」
だれの情報? なんの情報?
こんなに胸が痛い。痛いという感覚が嬉しいのに、消えていく。どうして消えるの。やっと。やっと。
呪いを
「『わたし』を壊すなんて、ゆるせない」
何百、何万、何億という人間の
ばちん、と大きく
「あまはら、なぎ。愛を手に入れた、わたし。
「エトワール。至高の魔女の名を持つ者。
わたし、『ドロシー=セターレ』は、あなたにあげるわ。いきていたときのわたしではなく、今のわたしのもとにきた、迷いもせずにここに一直線にやってきた、あなたに、あげるわ」
ゆっくりと翼の形の骨が伸びていき、
周囲を飛んでこちらを観測する衛星たちは、彼女の『
「さあ手を伸ばして。彼女の短い時間とは容量が違うの。わたしの『一瞬』は、彼女の『一瞬』ではないから、しっかりと、受け取って」
ドロシーの伸ばした手と、破壊され続ける檻は連動している。彼女は、機能を停止しようとしている。ここから放たれようとしている。
エトワールは映像の手に、そっと、指先を重ねた。
ぴくり、と彼女の映像が
「彼女のお願いを、叶えてあげて。あなたは、約束をまもってくれる。あなたは『
ほかのわたしを知るあなたに、わたしの『物語』を使える可能性がある」
音がどんどんひび割れるというのに、彼女の姿は光を増していく。エトワールがレンズ越しに、目を細めた。
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