勇者の物語 3
カノンナは耳鳴りを消し去りたいような気色悪さに
階段を降りた先に、この闘技場で戦う者たちが居る。もちろん、全員死ぬことになる。支配人の死は、エトワールの登場で早まっただけで、結果は変わらない。
すっかりこの世界の人間の数も減った。戦争でかなりの数を減らした。
石造りのこのコロッセオで、この世界の運命を知っているのはカノンナのみ。
男の
女は弱い。いいや弱くない。
女は男に従う。それは違う。
男に都合の良い世界で、異質な存在として現れた『勇者』。
カノンナは誰もたすけない。すくえない。てを、さしのべない。そうすることが、できない。
ビー、と
<勇者カノンナ、ト、対戦するノハ、
不快な音声で名を呼ばれ、ロックを解除される音がして、奥の扉が開く。どうでもいいことに過去の
開かれた扉の先の薄暗く細い道へといつものように進み、歓声と呼ぶには
美しい
まっすぐ向けた視線の先の
円形の舞台の上にはまだ二人だけ。あとは右手、左手から残りの二人が出てくる。美しいものを先に舞台に乗せ、みなの興味を引く。全員がこの
「おまえがいるから!」
「おまえさえ死ねば! 妹は助かるんだ!」
どこか
「目の前で妹が犯され続ける地獄を、おまえが死ねば!」
「…………………………そいつらの名は?」
青年の
「この後必ず殺しに行ってやる。おまえの妹も一緒に殺すことになるが、
言い終わるのと同時にカノンナの両手側から二人の
なんの予備動作もなく。
男三人の
鮮血が飛び散り、
奴隷の青年の視界が涙で
頭を吹き飛ばされた青年は、衝撃に耐えられずに血と破壊されたものを
返り血を
だから、このショーは面白おかしく、人々の目に
観客席の高いところに、カノンナを勇者にした女王が座っている。恐怖を顔に
カノンナと目が合うと、引きつった声を
やっと。
残った二人の対戦者たちを素早く
ひどい世界だ。無理やり出場させられた者たちはあっさりと死ぬことができるうえ、殺したい相手を言えばその死神は命を必ず
弱者は死ぬために震えながら死神の物語を、流す。とても
「ああ、あ」
ゆっくりと近づいてくる勇者の姿に
足を最初に攻撃されたのは、逃げることを、許さないという意味。
なぜ誰も助けない。なぜこの死神を誰も止めない。なぜおまえたちは。
わらっている?
*
王女がその奴隷と出会ったのは、まだ幼い頃だった。
あまりに美しい奴隷を目にして、王女は「欲しい」とねだった。王女の兄たちも、欲しがった。
王女の父は奴隷と、奴隷を所持していた医者を寝室に呼んだ。
医者は戻らなかった。
王女の一番上の兄が奴隷を寝室に呼んだ。
奴隷は美しいまま戻ってきた。
王女の二番目の兄が奴隷に戦いを挑んだ。
騎士団の一つが消えた。
王女の三番目の兄が奴隷に恋をした。
他の兄たちの声が消えた。
王女は残った兄の寝室に奴隷を行かせた。
奴隷は王女のものになった。
今までの奴隷たちは、父と母たちと兄たちが独占していたのに。
黒曜石の奴隷だけは、必ず王女のところに戻ってきた。
奴隷は勇者になった。
王女の夫が勇者を寝室に呼んだ。父と同じ姿になった。
王女の子供たちが勇者を寝室に呼んだ。兄たちと同じ姿になった。
勇者は王女の救世主ではなかった。
勇者は救世主ではなく。
医者がつくりあげた、世界を終わらせる装置だった。
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