ある姉弟の物語
広場で楽器の
「さあ、世界を救った
それともある配達人のお話がいいかな? それとも能無しのカカシの物語? すべてを手に入れた最高の魔女の物語もいい。
もしくは、とても遠い国の
道行く人々が足を止め、噴水の前で足組みをして語る歌声に聞き入る。歌というには、
「では、とっておきを話そう。ある
■原■と、■原■という名前のふたりは、
***
ひとがひとである限り、特別な力を得ても、復讐を願っても、起きたことは戻せない。
時間は巻き戻らない。
経験は記憶から消えることはない。
ひとでありたいのなら、そんなものは望んではいけない。
どんな
それは、他人の人生……たにんの物語。
物語は強力な力をもつ。なぜなら、ひとがつくりだしたものだから。ひとが信じた可能性だから。
けれども現実は残酷で、非情で、運命を
つらいだろう。くるしいだろう。しあわせに、なりたいだろう?
特別な力を得たからと、幸せが約束されるわけではない。
復讐を
正義はべつの誰かには悪で、悪はべつの誰かの正義になる。だから。
己の人生はなにかのためにあるかなどと、だれかのためにあるかなどと、
たにんの人生だから、
じぶんの人生になったとき、そんな錯覚は消えてしまうはずだ。
叶わない望みを物語に
***
視界の中でみえるものを、うまく認識できなかった。
「あっ、ああ! 目を覚ました、さましたっ」
「うそ! わたし、お父さん呼んでくる!」
だれ……? だれだ……?
ぼんやりした視界で、
「もうだめかと……!
ソウ……? だれのことだ? 俺は、あしはら、
あれ……それ、だれだっけ……?
「良かった……!」
「みず、ほ」
「
今度は男が視界に入ってくる。さっきの女性も、視界に戻ってきた。
「ね……ちゃ……」
ああねむい。すごくねむい。
なにか、足りない気がする。つかれてるから、そう思うのかもしれない。
かちん、と時計の秒針の音が聞こえた。
*
術後の経過も良く、俺は病室で大人しく過ごしていた。
スマホの画面をスクロールさせて、ある小説を少しずつ読んでいる。
事故のせいで、俺の記憶は穴だらけの状態らしい。回復するかどうかはわからないが、特に困っていないのでそこは心配していない。
両親は時間があれば来てくれるし、姉も子育ての合間にやって来る。同僚たちも見舞いや、時々メッセージを送ってくれる。
読みながら、つい、笑みを浮かべてしまう。
「こんな姉がいたら、大変だな」
異世界転生した
「作者名……トワ、か」
今はアップされたばかりだから目立っているが、読み手があまりいないからか順位はかなり下のほうにある。みんなやはり、痛快、爽快なもののほうに魅力を感じるようだ。
わからないでもない。チート能力は
あまりに現実離れしているから、かもしれない。
開けられた窓から心地よい風が入ってくる。すでに桜は散っている。
もう春も終わるんだな、と、俺は一瞬だけ外の晴れた空を
「……今年はろくに見れなかったから、来年の桜、楽しみだな……」
そう
愉快で極度の人嫌いな
それはまるで、夢のような『ものがたり』――――。
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