金銭としての価値はないし、ゴミだし
「これが所持金だあ!」
ばーん、と屋台の
それを眺めて、「みみっち」と言いかけたおじさんが
「お、おい、粘土で作られた偽のコインがいくつか混じってるんだが……おまえさん、
……うそでしょ。すっごい恥ずかしいんだが。
「詐欺じゃない! これは子どもたちが一生懸命作った、こども銀行の小銭だよ! 確かに金銭としての価値はないし、ゴミだし。だけど気持ちだけは受け取ったからね!」
ごみって言ってるんだが……。
おじさんが見るからに動揺してしまう。わかる……このひとと関わりたくないよね。いつもはこうじゃないんだ。ただこの興奮状態だと、こういうことを
「う、うーん……」
もう追い払ってくれていいです。お願いです。追い払って……。
押し黙っている俺のほうも見てくる。こっち見ないでください。
「毎日草のスープで
「草のスープ?」
「食べ物も買えない子どもたちが路地裏で痛めつけられてるこのご時世……それでもこうして
家にあったリンゴはもしかして
「本当にやばかったら、虫も食べなきゃいけないし、でもそこまでして生きてなんかいいことあんのかなとか思っちゃったりするけど、とにかくおじさんのパン、本当にパンか確かめたいので売ってください!」
「ああ? ここにあるのは誰が見てもパンだろうが!」
そうですよね。そう思いますよね。でもうちの姉が言っているのはそういうことではないんですよ。すみません。
「ふ。本当にそれがパンなんて
「は……?」
「
「そこまで言うなら確認しろ!」
「はは。言ったね。じゃあ、そこの有り金で買えるパン、確認させてもらうよ。文句は言いっこなしだよ」
…………すいません、うちの姉が。
おじさんはどのパンにするか
「さあ、食べてみな」
「いいとも」
姉は一口食べてから、静かにうなずいた。
「確かにこれは……ボクが知るパンだ。すまないね、
「でも、やはりボクが知るパンとは違うようだ」
「なんだと!」
「
……ぇえ?
「もっともっとおいしくなるんじゃないかい、これ」
「……お嬢ちゃん、なにものなんだ?」
ただの貧乏な
かぶっている帽子のつばをくい、と少しだけ下に動かし顔を隠す。なにもかもが、うさんくさい。
「ただの田舎の吟遊詩人だよ。今日のパンの代金、足りないと思うから明日も持ってくるとも」
「…………」
「ボクはウテナ。この町の人たちに聞いてみてもいいよ」
そりゃ、こんな格好してるの、姉だけだろうから
ではね、と身をひるがえして去る姉を
追いついた姉は案の定、もうパンに飽きている。
「そしゃく、めんど……」
「押し付けないでよ……」
自分のはもらっているのに。
「いいから食べてみ?」
食べかけなんだけど…。仕方なしに口にする。……パン、だけど、かたい。あれ? そういう種類なのか?
「日本じゃないからね。柔らかいパンって少ないとは思ってたんだよね」
確かに
やれやれと背中を丸めながら歩く姉の、この気分の落差よ……。
「そういえば、魔法使いの
「まあ、姉ちゃんたちは使えないよ」
「使えるようになるかもしれないのに」
「そんなに簡単にできるなら、こんな田舎町の、町はずれの家で暮らしてないよ」
さも当然のように姉が言う。なにか、確信があるみたいな、言い方だ。
「いいおじさんだったな。ちょろかったけど、でも、こどもだからって情けをかけないのは、職人としては信用できる」
「…………」
「でも
にっ、と姉が笑った。…………いい出会いだったのかもしれない。
真正面から顔を見て、話をして、交流する。簡単でいて、すごくむずかしい。
太陽は
「もしかして、別の世界じゃなくて……地球のどこかの時代かもしれないよね」
「…………そうだな。でも、姉ちゃんはここがどういう世界か、わかったよ」
「えっ? マジ?」
「うん。でもそれ、いま言ったところでどうでもいいことだから。とりあえず帰ってご飯食べよ。生きるって、ほんと大変だよ」
しみじみ言うことかな、それ……。
帰って台所を調べた結果、かまどらしきものはあった。
「おお、キャンプみたいだ。よし、
と言って暗い中に出かけた姉はものの数分で戻ってきた。
「うわ~、虫がめちゃくちゃいる~!」
……キャンプも虫との戦いなんだよ、いい経験になっただろう。
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