お取引ありがとうございました
「おや~。もう夕方か。早いなぁ」
「こうやって合流して帰るの、
「だいじょぶだいじょぶ。ここでの姉ちゃんも変わってるみたいだから、それを世話してる優秀な弟が
「……僕はべつに優秀じゃないよ」
むしろ姉のほうが色々な面で
だがそのマイナス面を
ひたすら書いてばかりいた時代で、姉の書き方を
先に頭の中から外に出した場面はすべてが物語に必要なもので、その場面を
だが本人はいつも納得していない。こんなつもりじゃなかった、と毎回言っていた……。
こんなひとを、俺は知らない。姉は希望の物語を一切書かなくなったし、どこかに応募することもしなくなった。それでも……時々、思い出してはなにかを書いてはいた。
そんな風に俺が
「
「なにか買って帰ったほうがいいんじゃない? 台所がどうかはわからないけど、料理なら僕が作るから」
「よっしゃ! じゃあこのお金でなにが買えるかやってみよう!」
「……いきなり無駄遣いするのはやめてよ」
屋台が通りに並ぶ商店街とやらに足を運んだ。どうやら姉は先にこちらにも来ていたようだ。
「ウテナちゃーん! どうだったー?」
明るく声をかけてくれるおばあさんに、姉はにこにこと笑顔でお金を見せた。なんだか少し不思議な光景だった。日本にいた頃、姉がこんな顔をすることはほぼなかったからだ。
「やっだー! 偽物も入れてあるじゃない!」
「えー? どれどれ? あ、残りで今晩の夕飯に使えそうなもの、なにか買えないかなぁ」
「いっつも雑草買って行くのに、珍しいねぇ」
おばあさんがこちらを見比べる。どうやらいつもの二人とは違う行動をしているらしい。ということは、こっちの自分はあの草スープを日常的に食事としてとっていたということだ。
「パンくらいなら買えるかねぇ。あそこの屋台のほら、あそこ」
ちらちらと視線で示してくれるほうを、俺たちは
「おばあちゃんのところでは買えない?」
並んでいる加工された肉類を
「じゃあとっておきの話を休みの日に聞かせてくれたら、
「わー! やったー! どういうのがいい?」
「そうねえ。ロマンチックなのがいいねぇ。うちの旦那とは違う、かっこいい人が出てきてねぇ」
「ほうほう」
なにが「ほうほう」だ。もうすでに頭の中で話を組み上げ始めているだろうに。
「約束!
「残りは成功報酬だよ」
「物々交換最高!
お取引ありがとうございました。またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします」
「?」
ぺこ、と頭をさげる姉が「はっ」と、やらかしたという顔をする。おい……それ、オタのグッズ交換の時にやるやつじゃ……。
「は、はははー。
く、苦しい! 見てるこっちも苦しくなる! 無理だ、色々と。
「ウテナちゃん、ほんとおもしろいねぇ~」
す、すごい。日頃からこうだから、おばあさんがなにも疑問に思ってない! え、この世界では変な人のほうが得をするのか?
肉の切れ端を大きな植物の葉で包んでくれて、渡してくれる。そうか……ビニールとかないよな、こんな感じだと。でもたぶん、ここは本当の中世ではない。だからあちこちが、ちぐはぐな感じがしているのかもしれない。
「じゃあまたね~」
と、姉なりの愛想よさで手を振ってそそくさと俺の横に戻る。俺の視線に「スンマセン」と
「だって話ひとつとベーコン交換なんて……元の世界じゃ考えられなくてさぁ」
「あー……まあそうだよな」
ネットが発達している世界では、物語なんていう、
自分で小説書いてみろってんだ。簡単な魔法みたいに作られてるようにみえるそれが、きちんと作品として完成する大変さを、想像もできないほど貧相な考えなら、ほんと……趣味サークルの中だけにいて欲しい。外にでてこないで欲しい。
「でも弾き語り……みたいでけっこう人が集まってたみたいだけど、びっくりした」
「そりゃ、娯楽が少ないからでしょ」
あっさりと姉が言う。
「スマホもないんだよ? 携帯電話もない。娯楽らしいのって、どうせボードゲーム系でしょ。昭和初期の日本に近いかもしれない……」
いや、それより前かも……。
真剣に考えている姉は、もはやパンのことなど抜け落ちているらしい。もういいや。
とりあえず腕を引っ張って屋台を移動する。しかし保存方法とかあまりないからか、色んなものが屋台に並んでいるが……食料のほうはやっぱり少ない。日持ちしないからだろう。
「すみません、あの」
腕組みしている
普段なら近寄りたくないし、関わりたくない。避けて通るタイプの人間だ。
「すいませーん! 貧乏なんで、おいしいパン恵んでください!」
「ひいいい!」
堂々と胸を張って言う姉の横で、思わず俺は悲鳴をあげてしまう。無茶苦茶するよ、ほんと!
「冷やかしなら帰れ!」
「ばかな! 一応お金はあります! 盗もうって言ってるわけじゃないんでそういうのやめてください!」
「そんな
「ボクを知らぬとか、ふふ、おじさんあまり噂話とか、人と関わらないから知らないみたいですねぇ」
……ぼく? 一人称いきなり変えてきたけど、それもキャラづくり?
たじろぐおじさんに、姉は
「知る人ぞ知る、娯楽のひとつを提供する変態吟遊詩人とは、ボクのことさ!」
「……冷やかしじゃないか。おまえら以外にもみんな金に困ってるんだよ」
「そんなの当たり前じゃないか! お金に困ってなかったら貧乏なんてわざわざ言うもんか!」
す、すごい開き直りだ! こっちの心臓がもたない!
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