第13話 夜に

「ねぇ。お父様。私も神龍剣が習いたい!」

キラキラした顔で、お願いする娘。

しかし、それは、、

「無理だ」

私はそれだけ返す。

「何で!どうして!」

必死に食いついてくる娘に、私は現実を突きつける。

「神龍剣は、、真の竜王。竜神にのみ扱える技。私も、知ってはいるけど使えないのだよ」

きょとんとした顔をする娘。


「いつか、この技を受け継げる者がいれば、、それは、竜王。いや。竜神となる資格のある者。リーンは、その方を支えてあげなさい」


ふと、私は目を覚ます。

一か月くらいは寝ていたのだろうか。

「エル。君は、本当に、、、」

私は薄く笑うと、金色の尻尾を丸める。

「娘を、頼むよ」



神龍剣に、流せぬモノなし。

神龍剣に、弾けぬモノなし。

神龍剣に、貫けぬモノなし。

神龍剣に、届くモノなし。

神龍剣に、壊せぬモノなし。



「ふう。大丈夫?リーン」

僕は、笑いかける。

リーンは、下を向いたまま。

小さくごめんなさいと言っているのが聞こえる。

僕が神龍剣を使った事に謝っているんだろうけど。

僕は、リーンをそっと撫でてあげる。


「な、、、なんだ、、今のは、、」

シャイが、目を見開いている。


最強とも言われる聖賢の技の一つ。

それを受け止めて。

一切の無傷。

そんな事、、

「ありえるはずが、、ない、、、」

「シャイ。ちょっとやりすぎだよ」

僕は、枝をしまいながら幼馴染に声をかける。


ちょっと右手が痛いかも。

まあすぐ治ると思うけど。


けど、確か今のって、聖賢の最強技の一つだったような。

学校ごと壊す気だったのかな。

そんな事はないと思うけど。

僕は、そんな事を思いながら、再び庭へと視線を向ける。


うん。あと2か月くらいで見ごろになるかも。

そんな事を思いながら。



「シャイ君。どうしてあんなことを?」

校長のエリナーシャがシャイを呼び出していた。


横を向いたまま。返事をしないシャイ。

「はぁ。以後、こういうことはしないで下さい。いいですね。シャイ君」

エリナーシャは困った顔のまま、シャイに注意するのだった。


折られたと思った。

たかが枝。

そう思っていたのに。

枝で受け止められ、流された時。

聖剣を折られたと思った。

流されるまま、エルの思うままに動くしかなかった。

歯向かえば、剣は折られていた。

何故か許せなかった。

枝に。聖剣が負けるなんて。


気が付いたら、最強技をぶっ放っていた。

なのに。


あっさりと受け止めた。

エルは、あっさりと受け止め。

まったくの無傷。

「ありえない、、ありえないだろ。俺は、転生者だぞ」

シャイの小さい呟きは、誰にも聞こえなかった。


「ありえません!」

怒っているリーンだけど。

さっきまで、僕に散々怒られてしゅんとしていたのに。


聖流流星剣アルティメットストロームですか。伝承にある通りなら、竜王を退けた、最強技ですね」

レティシアが、小さくうなずく。

「私は、あなたの事も、ありえないと思っているんですけど」

リーンが、僕の腕を離してくれない。

「あら。未来の旦那様ですから。今子供をもらっても全然大丈夫ですし」

僕は、小さくため息を吐く。

だからって、ふたりとも、肌着だけとか。

ほんとうにやめて欲しいんだけど。


「イチャイチャ出来ないじゃない」

「気にしなくてよろしいのですよ。私もまぜて頂きたいですし」

何か、重たい空気の夜は、僕が疲れるんだけどなぁ。


「それよりも、、シャイさん、、でしたか?聖賢のスキルを持っている割には、ひどく好戦的なようですね」

「あんな奴じゃなかったんだけどな。村にいた時は」

もっと優しかった。もっと周りに気を使っていたと思う。


「力に溺れてしまったと言う事かも知れませんね」

じっと僕を見るレティ。

「エル様は大丈夫です!力に溺れるなんてっ」

さらに抱き着いてこられても。

辛い。


「私としては、リーン様の強さは知っていたのですが、エル様の強さは、、すみません。表現の方法を知りませんわ」

じっと僕を見る。そういえばっ!

「なぁ。リーン。シャイと何かあったのか?」

胸だけでなく、頭まですり寄って来ているリーンを撫でる。

なんか、シャイが、リーンを凄く評価していた事を思い出す。

「ああ。。竜聖剣をどこで知ったのか。見せて欲しいと言われたから、お相手しました」

ああ。それでか。。

リーンの力は、竜聖剣じゃなくて、その剣術そのものにある。

僕も剣術だけの勝負だと、7割負ける。

魔法は使えないけど、神龍剣ありだと、まぁ、、神龍剣が規格外だから。

「エル様の場合、剣が持たないだけです」

リーンの頬が膨れている。

「きちんと、お相手はしましたよ?」

うん。なんとなく、察しはついた。

「竜聖剣、無しで、でしょ」

そっぽを向くリーン。

ぼこぼこにしたな。


「それはそれは、強かったと。お噂でしたわ」

人間が、竜の腕力、速さ、運動神経に勝てるわけはないからね。

竜は、特に、リーンと、ガルムさんは、1秒間に、2回動ける。

反則だよね。



「エル君に、負けたからって」

「うるさい!」

また、シャイ君が荒れている。

リーンさんが来て、リーンさんと決闘してから、シャイ君はずっとこんな感じだ。


私の負担も凄く増えている。

「お前はだまって付いてくればいい」

押し倒される。

シャイ君の、荒れている気持ちが収まればいいと思って、私は目を閉じた。

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