第12話竜王

「はじめまして。レティシアと申します」

ざわざわと、教室の生徒全員が騒ぎ出す。

「おい、、あれ、、」

「絶対そうだ。雷帝の・・・」

「あれが、雷帝のか」

ざわつく教室の中。


その隣で、僕は頭を下げていた。

「今日から、ここでお世話になる事になりましたエルです。よろしくお願いします」

「16歳にして、とっても腕のいい庭師だそうで。楽しみですわ。ここの学園も、すてきな庭と、素敵な花で生徒たちを癒してあげてくださいね」

校長と自己紹介した女性が、小さく笑っている。

エリナーシャ・ファラ。

ファラ侯爵の令嬢で、はっきりいうと、国の重鎮の娘だ。


「し、、しがらみが、、」

「あら。何か言われましたか?」

にこやかに、僕の独り言はかき消された。




「この辺りが、どうも生育が悪いのです」

校長自ら、庭の説明をされるのはどうかと思うけど、どうやら、位の高い者しか触れない庭らしい。

学校の入り口近くの庭だから、学校の威厳とかかかっているのかな。

そんな事を考えながら、校長のエリナーシャの言葉を聞いていた。

すると、遠くから、生徒たちの声が聞こえて来た。


「リーンさんて、剣術が凄いのでしょう?」

数人の女性に囲まれていたリーンは、ずっと周りを見ている。

そして、リーンは、僕を見つけると、一直線に走って来る。

「エル!」

リーンは、まったく躊躇する事なく、僕の腕にからまってきた。

「あら。ああ。そうでしたわね。リーンさんは、エルさんの恋人でしたか」

エリナーシャが、微笑む。

「恋人じゃありません。妻です」

リーンは真剣だった。

「そうですか、、」

「えー!リーンさんて、人妻なのですか!?」

リーンを囲んでいた女の子たちが、びっくりしている。

「ちょっと、リーン。仕事中だって」

「えー、でも、リーンさんほどの剣士の夫が、庭師というのも、、どうなんでしょうか?」

ぼそりと、一人の女の子が呟く。

リーンの手が少しだけ震える。

だから、僕は、こそっとリーンに顔を近づけた。

「僕ね、、国王直属になったんだ。だから、何を言われても気にしないで」

「それ、、昨日の夜言って欲しかったです」

「ごめん。昨日は、レティの事で忙しかったから」

少し機嫌は直ったらしい。


ニコニコしながら、腕を絡ませて来るけど。

「けど、仕事中だから。詳しい話は夜にね」

「はい、分かりました。竜王としての自覚、、お願いしますね」

あっさりと、腕を離すリーン。


僕はそんなリーンの顔を見て、微笑んでいた。




「おい!庭師!リーン嬢をかけて決闘だ!」

普通に、庭の整備をしていると、突然声をかけられる。

ふと後ろを振り向くと、学校の生徒の一人が、こちらに宣戦布告をしてきていた。


とりあえず、、この花は、こっちに移動させてあげたほうが喜ぶよね。

「おい!無視するでない!平民!」


ああ。この雑草が、いや、雑草じゃない。これは、、

「こちらを向けと言っているのだ!」

もしそうなら、とっても楽しい事になりそうだ。


「向けと言っておるではないか!」

魔力が練りあがっていくのを感じた僕は後ろを振り返る。

「晴天の灯りよ。灼熱の風よ。火に施すは我が魔力。炎に施すは我が決意。目の前の愚鈍な物塊に、怒りの炎を指し示せ!ファイアーボルト!」

突然、魔法か。

炎の塊がこちらに飛んでくる。

「枝召喚」

始祖の木を召喚。

「神龍剣 ながれ

魔法の火をからめとり。

受け流し。空中へと霧散させる。


「庭が、燃えるんですけど」

枝召喚を覚えて、町の庭を整備してて。

ちょっと、庭を作る楽しさを覚えて。

だから、僕は睨みつける。

「ま、、、魔法を、、、はじき、、枝で、、?」


「何の騒ぎだっ!」

尻もちをついている生徒を見ていた僕の前に走って来たのは、シャイ。

「エル、、君?」

その横から、息を切らして顔をのぞかせたのは、ミーアだった。


金髪のふわふわした髪が可愛いと思う。

顔は、、充分可愛い。


けど、今はそれほどドキドキしない。

リーンのが、美人だし。


「エル君?君がどうしてここに?」

シャイが、困惑した顔をしている。

「ああ。ここの庭を預かる事になったんだ。なんて言っても、枝召喚しか使えないからね」

僕が笑うと。

「こ、、、こいつ、、枝で魔法をはじきとばした、、」

尻もちをついていた生徒が俺を指差す。


面倒な事を。余計な事は言わないで欲しかった。

「へぇ。いつそんな技を覚えたんだい?」

シャイが、少し暗い気がする。


町にいた時はこんな顔をする奴じゃなかったんだが。

「シャイくん?」

ミーアが、困った顔をする。

「いいだろう」

シャイが、剣を抜く。

「ちょっと、シャイ君!聖剣をここで抜いちゃダメだって!」

「聞いたよ。リーン嬢と、一緒になっているって。あれだけの剣士と一緒になっていると言う事は、君も、、充分強いのだろう?」

はぁ。脳筋体質は、変わらずか。

え?誰と比べているんだ?僕は。


一閃。

シャイの上段からの斬りつけが襲い掛かる。

すらりと枝で受け止め。

剣を流して地面へと誘導する。


始祖の木は、物理破壊無効だから、絶対に壊れない。

まともに当たると、聖剣が折れる。


地面に刺さった聖剣を見て、さらに僕を睨むシャイ。

「流石、、といった所か、リーン嬢が、強さを認めるだけはある」

リーン。シャイと何やったんだよ。


「ならっ!」

シャイの気が、一気に膨れがるのが分かる。

おいおいおい。学校の中だしっ!しかもここ、僕の庭っ!

「秘めたるは、静執せいしつの箱。輝けるは慟哭どうこくの庭。天成の生業をもちて、天性と為す。聖流流星剣アルティメットストローム!」

「竜聖剣!波覇両断ウォーターバズ


光りが飛び交い、光の濁流となったその光の前にリーンが割り込む。

「バカっ!」

僕は思わず叫ぶ。

波覇両断ウォーターバズじゃあ、役不足。

斬りきれない。

なんといっても、聖賢の、聖魔法と、聖剣術の混合技だ。

「神龍剣。へき

咄嗟にリーンの前に出ると、技を発動。

自分の中の力が、壁のように広がり。

光りの濁流の全てを受け止める。

びっくりしているリーン。

後で、お仕置きかも。


全ての光りがおさまった時。

何も起きていなかった。

庭も。

周りにも被害なし。

僕はこっそりとため息を吐く。


「神龍剣に、届くモノ無し」

リーンの呟きがはっきりと聞こえていた。

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