第10話任命
「楽しみですね」
リーンは、笑いながら馬車から外の景色を眺めている。
「そうだね」
僕も、そんなリーンの横顔を見て微笑む。
「?私を見ていませんでしたか?」
「ううん。違うよ」
慌てて彼女から目線を外す。
本当に彼女は可愛い。
そして、数日かけて着いた先は。
「ここ、、ですか」
「みたい、、」
二人で住むと言われた割には、大きな屋敷だった。
「これ、、お手伝いさんが必要なんじゃ、、」
「私一人でも、大丈夫、、とは言い切れないかもしれません」
リーンも、思わず尻込みしてしまう。
「おかえりなさいませ!エル様!奥方様!」
突然現れたメイド服の女の子に、びっくりする。
「え?」
「このお屋敷を管理させていただいている、ララノアと申します。今回、お二人のお世話をさせていただく事になりました。よろしくお願いいたします」
「え、、えーと」
困惑する僕たちに。
「大丈夫ですよ。エル様には近づきませんから」
「なっ」
耳打ちされて、びっくりするリーン。
ララノアさん、、聞こえないように言ったつもりだと思うけど、、僕、耳すっごくいいから聞こえてる、、よ。
それはそうと。
「ララノアさん、、ですか。名前からして、西の国の方ですか?」
「あら。エル様は博識ですね。はい。私は西の国のドライズ国出身です」
「名前で分かる物なのですか?」
「うん。西の国は、エルフの伝説があって、エルフっぽい名前を女性に付けることが多いんだ」
「そうなんですね」
「ララノアは愛称でして。本名は、ララシャール・シャグリア・ミストレスと申します」
そう言って、頭を下げる。
「エル、、鑑定使ってるでしょ」
リーンが、僕に聞こえるか、聞こえないかくらいの小さい声で呟く。
その声に、思わずドキッとしてしまう僕。
「竜鑑定、、竜の王だけが使える、特殊スキル」
「リーンも使えるんじゃあ?」
「無理ですよ。竜の王の血を、お父様の血を呑んだのは、貴方じゃないですか」
うん。確かにね。
おかげで、5日くらい寝込んだけど。
「人の身で、竜の血を呑むとか。死にたいのかと思いましたけど」
リーンの顔が赤い。
思い出したら、僕まで顔が熱くなる。
「とりあえず、中へどうぞ」
ララノアに促されるように、家の中に入る。
「寝室は、こちらになります」
「だ、、ダブルベッド?!」
「いえ。トリプルベッドです」
「何でそんなに大きいのっ!」
「いろいろありまして」
にこやかに笑うララノア。
「今日はお疲れでしょうから。ゆっくりされてくださいね」
「お食事ができましたら、またお呼びいたしますので」
部屋から出ていくララノア。
「えっと、、」
二人で顔を見合わせて思わず笑う。
「明日から、エル様はお仕事なのですね」
寂しそうに呟くリーン。
「君だって、明日から学校でしょ」
「そうですけど、、」
「まあ、二人、がんばろうね」
「そうですね」
僕と、リーンは笑うのだった。
「今日から、入学するリーンネイトです。よろしくお願いします」
皆が、ぼうっと彼女を見る。
「すっごく綺麗な人、、、」
ふわふわした金髪の髪の子が、そんなリーンを見て、茫然としていた。
「今日から、お世話になります。エルです」
僕が頭を下げると。
「おう。16歳の天才庭師か。話は聞いてるが、ちょっと来てくれ」
突然、どこかへと連れていかれる。
え? 中庭じゃないの?
どんどん人が居なくなって、メイドさんたちがすっごくなんか、凄い人だと分かるんだけど。
「庭師の、ラッテルです。入ります」
少し豪華な扉を叩く。
すると、扉が自然と開き。
「やあ。首を長くして待っていたよ。私が、アフレェス・カライド3世だ」
ラフと言ってもいい、部屋着を着たまま、大量の書類に目を通していたのは。
こ、、国王様?
にっこりと笑った国王は、周りに目配せを行うと、周りにいた、メイド、執事さんたちが退室していく。
「さて。ラッテル。どうだ?」
「十分だと思われます。全く疑問はありません」
にっこりと笑う国王。
「君には、聞いて欲しい事があってね。この国は、確かにシャイアが建国した事になっている。けどね」
ゆっくりと、国王が後ろを振り返ると、そこは中庭になっている。
「本当は、一人の英雄が作り上げた国なんだ。その英雄は、木と話せたという。そして、庭師として働いていた」
ひたすら頭を下げている、ラッテルさん。庭師筆頭と言っていたので、庭師のまとめ役のはずなんだけど。
「それゆえに、王族の護衛件、王族の暴走を止める者として、この国には庭師が存在する」
え?
聞いた事も無い。
「兵士など飾りだ。この国は、いや、この城は庭師によって守られている」
いたずらをしている子供のような顔をしたままこちらを見る国王。
「大体、この城に攻め込むのに、大量の兵士を送りこむ必要は無いんだよ。腕のいい暗殺者を一人送れば、4人は王族を殺せる」
その言葉に、僕は分かってしまった。
「それゆえに、庭師が存在する。城の中の全ての植物を管理する庭師は、この城で入れない場所はない。そして、庭師に勝てる騎士も存在しない」
「あらためて紹介するよ。 国王直属庭師 軽装警備隊 隊長ラッテルだ」
え?え? 直属隊?
「庭師の社会的地位は低い。きっと笑われるだろう。しかし、城の庭師という地位は、この国では近衛騎士の将軍を遥かに超える。命令できるのは私だけだしね」
にっこりと笑う国王。
「ようこそ。エル君。国王直属庭師。その一人として歓迎するよ」
僕は頭がパニックになるのを感じていた。
「そして、君には、もう一つの任務をお願いしたくてね。入っていいよ」
ゆっくりと扉が再び開く。
そこにいたのは、僕と同い年くらいの女の子。
きらめく金髪の髪と、金色の目がすごく印象的だった。
良く見ると、国王様の目も金色だ。
「気が付いたみたいだね。私の4番目の娘だ今年で15歳になる」
「君は、建国の英雄の後継者だと聞いた。この子をどうかな?」
え?
「いえ、ちょっと、それは、、」
僕は流石にこれ以上流されたらまずいと口を開く。
「大丈夫だよ。重婚は許可されている事だからね」
ええーーー!
「君の仕事は、庭師として、冒険者学校へ行って欲しいと言う事だよ。この子も今年入学予定だしね」
さっきのは、からかい?
じゃあ、この子を守れという事か。
僕はぐるぐるする頭を必死に働かせて、答えを出す。
「分かりました。庭師として、冒険者学校で頑張ります。その時に、お嬢様に何かあれば、全力でお守りします」
「ふふふ。16歳とは思えないその度量。手紙に間違いは無かったみたいだね」
国王は、こちらを見ながら笑みを絶やさない。
「よろしくお願いするよ。息子君」
僕は、汗が、噴き出るのを止められなかった。
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