第9話召しあげられた

「君に来てもらったのは他でもない」

領主さんが、僕の前に立っている。

はっきり言って、足が震えて、がくがくしてる。

竜の里で一杯訓練したし、リーンは、僕が竜の長だって言ってくれるけど、まだ自覚も何にも出来てないから、こういった偉い人との会話は、すっごく緊張するし、今すぐにでも逃げたいと思っている。


「お招きいただき、光栄に思います」

リーンが、小さくカテーシを決めているのを見て、僕はさらに困惑してしまう。

とりあえず頭を下げようとしたら、リーンに止められるし。


「ダメですよ。あなたは竜の長となる方なのです。頭を下げるなど」

言語同断です。

そういっているように聞こえる。


「それにしても、、良い服をお持ちで」

領主さんが、まじまじとこちらを見て来る。

もちろん、封印確定の超やばい服は出してない。

今着ているのは、それなりに良い服とよばれるような物。


けど、はっきり言って、僕たち農民が着れるような服じゃないんだけどね。

リーンは、薄青のドレスを見事に着こなしている。

スタイルのいい彼女が着ると、どんな服も喜んでいるように見えるけど、今着ているドレスも、ドレス自身が目いっぱい喜んで美しく見えるように頑張っているようにすら見える。

つまり、、めちゃくちゃ、綺麗だった。


隣で、この前僕たちの家に来た執事が、小さく頭を下げ続けている。

「それはそうと、、君たちに来てもらった理由なんだけどね」

意外と気さくな性格なのか、笑いながらこちらを見て来る領主さん。


執事が、そっと、切り分けた桃を出して来る。

それを一口、口に含むと。

「君は、この桃の事を知っていて育てているのかい?」

思わず僕は首を振る。


「これはね、50年前に絶滅したはずの、この領地でのみ取れた、竜桃と言われる物でね。竜のみが食べれる桃に匹敵するとまでいわれた桃なんだよ」

えーと。それって、、、

竜の実と一緒ってこと?

竜の実は、桃じゃなくて、どっちかと言えばリンゴなんだけど。

余計な事を考えていると。

「さらに、この花」

村の中庭から綺麗に切り取られ、切り花にされてかざってある花を見つめる。


「白美と呼ばれる花で、万能薬の材料でもある」

へぇー。綺麗だったから、育てて量産してたけど。

「育てるのが、酷く難しくてね。誰も成功した人はいないそうだ」

え?

「これを報告したら、エル君。君を庭師として欲しいと言って来た」

え? どこが?


「王室の庭師が、君を欲しいと言って来たんだよ」

えーーーー!


僕は目をまん丸にて驚く。

いや確かに、庭師として働くしかないと思って時もあったけど。

城の庭師なんて、、それ、、

「庭師としては最高峰。そして、誰でもなれるわけがない仕事だ。もちろん受けてくれるよね。私としても、鼻が高いんだ。自分の領地から、これほど優秀な人が出てくれる事がね」

「拒否は、認められておりませんゆえ」

執事さんが、小さく横で呟きながら、王様の封蝋がされた手紙を差し出して来る。

つまり、、、


王様命令!ゼッタイ!

震えながら、その手紙を受け取る。

「受けてくれてよかったよ。それとね、、別で、リーン君。君にも渡すものがある」

リーンの前に出されたのは、これは領主の名前が書かれた手紙。


「アッシュと、ラティア。二人の事は知っているね」

うん。この前まで家にいた、冒険者の二人だ。

「彼らはね、Bランクで、私の依頼も何度も受けてくれている、とても優秀な冒険者なんだけどね。最近、銀色の髪をした女の子に師事を受けていると言われたんだ」

リーンが、小さくはにかむのが見える。

うん。可愛い。

「そんな人物を、田舎に押し込めておくのは、心苦しい。というか、損害でしかない」

リーンも目を丸くする。

目の前に置かれているのは、紹介状。

「王都の冒険者学校に入ってくれるかな」

リーンが、口を開こうとする。おそらく、拒否の言葉を。

「そうそう。君が了承してくれるなら、二人の城を用意しようじゃないか。気兼ねなく二人っきりでいられる家を。冒険者学校のお金もこちらが出すよ」

「分かりました!」

いきなり了承するリーン。

こちらを見て来る目は、あきらかに飢えた獣の目だ。


僕、、食べられるのかな、、

「こちらも了承してもらえて、良かったと思うよ。二人とも頑張っておいで」

領主さんは、本当に裏なんかないといった笑顔を見せてくれたのだった。



私は屋敷から出て行く馬車を見つめていた。

領主と呼ばれるようになってから、これほど緊張した話し合いはあまり記憶に無い。

「おめでとうございます」

執事が、私の横で小さく頭を下げる。

「ラフター、改めて聞く。どうだった?」

「無茶苦茶、、、というしかありません。リーン嬢さまはもちろんのこと。

エル様にいたっては、私では、指一つ触れる事もできません」

「そこまでか」

分かってはいた。が、改めて聞くと震えが来てしまう。

私も、戦場を駆け抜けた事はあるのだが。

「王都の、王宮の守りとして、エル様を送り出す。誰も知られずあれだけ腕がある者がいれば、安心でしょう。ラフター、敬服いたします」


「確かに、シャイ君は強い。けれども、聖女様を守り切れるまでの力はまだない」

「だからこその、でございましょう」

「だからこそ。のだ」

領主の手には、手紙が握られている。


魔王。

そう呼ばれた者の復活。

「国王へ、知らせは走らせたが、、」

聖女を、守る者が必要だ。

領主と、その執事は、真剣な目をして、歩いて行く二人を見つめていたのだった。

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