第8話見つかった?

「お芋が上がりましたよ」


リーンが蒸かしたイモを出してくれる。


「おお。リーンさんのは、丁度いい加減で美味しいんだよな」


嬉しそうに兄がそのイモをほおばっている。


というか、兄もいい加減いい人を見つめて、出て行って欲しいと思うけど。


僕以上に、兄さんには、女の人とのいい噂を聞かなかったりする。




弟の婚約者のご飯を美味しそうに食べている兄を心配していると。


家の扉が激しく叩かれる。




どうしたのかと思って、玄関を開けると、この前、竜が来たと知らせに来てくれた中年の男の人だった。


「エル!いたか、丁度良かった!ダットも居るか?」


お父さんを探しているらしい。


「今、帰って来ると思うけど。ちょっと前に、畑の様子を見に行っただけだし」


「お?どうした?血相変えて」


そんな事を話していたら、父親が帰って来た。




その顔を見て、中年の男性はお父さんを掴むように興奮したまま喋る。


「何でもないとかじゃねぇ!領主様の使いとか言う人が、来てるんだよ!もう少ししたらここに来るらしいぞ!」


僕も、父さんも目が点になっていた。


何で?領主様の使いなんて、一度も来た事ないし。


村の事をそもそも知ってたの?


「何の用だ?そもそも、この村の事を知っていてくれたのか?」


お父さんも、僕と同じ反応をしている。


「知らねぇよ!それよりもよ!」


「こちらが、ダットさんのお宅でよろしいでしょうか?」


僕たちが声をした方を振り向くと、綺麗な服を隙なく着こなしている男性が立っていた。


背筋も伸びていて、たたずまいと言うか、立っているだけで、僕たちとは違う人だと思える。


帽子を胸に当てたまま、少しだけ頭を下げているその人に、思わず「はい」と返事を返すと。


「突然の訪問にも関わらず、お返事、ありがとうございます。私、領主様の執事をさせていただいております、ラフターと申します。以後、お見知りおきを」


さらに頭を一つ下げられる。


「え、、えっと、、」


慌てている父さんたちを後目に、ラフターさんは顔を上げる。


「さっそくで申し訳ないのですが、私のご主人様からのご連絡がございまして。エル様。リーン様に私のご主人様から、お伝えしたい事がございます」


家の奥から追いかけて来たリーンと僕は二人で目を合わせる。


「私のような、若輩者ではお伝えするのもはばかられる事でございまして。出来れば、お二人には、私のご主人様の館まで、ご足労をお願いしたいと。良いお返事をいただければと思いまして、不肖ながら、お願いにまかりこした所です」


「ま、、かり、、?」


リーンが、首をかしげる。


僕も、分からずに、首をかしげていると。


「領主の館に来て欲しいと、伝えに来たってことだよ」


兄が、後ろから声をかけてくる。


「え?え?」


「そ、、それはもちろん」


父さんは、咄嗟に返事をしてしまう。


「良いお返事をいただき、ありがとうございます。私のご主人も喜ばれる事でしょう。また、後日、お迎えにあがらせていただきますので、その前にもう一度ご連絡をさせていただきます。エル様、リーン様、お二人と会える事を、楽しみにされておられましたので、お気軽にお越しいただければと思います。それでは失礼いたします」


綺麗なお礼を言うと、ラフターさんは、にこやかな笑みを浮かべたまま町の外へと歩いて行く。


その外には、少し立派な馬が繋がれているのが見えた。






「おい!どうするんだ!領主に呼ばれるとか、何かしたのか!」


「というか、どうしましょう?服とか、整えた方が良いのかしら?」


ラフターさんが帰った後。


家の中は大騒ぎになっていた。


父さんは、焦ったまま大声を上げているし、お母さんはあたふたしっぱなしだ。


「竜魔法の、収納の中に、いくつか礼服を入れてます。それを着て行ったら大丈夫とは思うのですが」


リーンが、ぼそりと呟いてくれるけど。


いやいやいやいや。


「あれは、まずいと思うよ。下手したら、王族よりもいい服じゃないか」


リーンが言っている服というのは、遥か昔に竜王に献上された服だ。


そこら辺にあるような服じゃない。


小さかった僕が、一目見ただけで、これは着てはいけない奴と思ったくらいなのに。




「エル様が、地方領主より下に見られる事はまず無いですよ?竜王様の跡継ぎが、領主より下とは思いませんし?」


リーンは笑っているけど。


いろいろと胃が痛くなるから、辞めて欲しい。




「だとしても、あの服を出すのは今じゃないと思う」


キラキラした目で、こちらを見て来るリーンに、僕は必死に待てをかける。


だから、竜の里にいた事とか、いろいろと抱えてる秘密は今出しちゃダメな奴なんだって。


そんな事を必死に思いながら。


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