第7話ささやかな日常2

「それはそうと、、」


助けた男が、僕の方を見て来る。


「これをどうぞ」


リーンがそんな僕たちの前にふかしたイモを持って来た。


「おお。これ、おいしいんだよな」


男は、美味しそうにそのイモをほおばる。




「でな、お前たち、どういう関係なんだ?」


男が興味深々で目を輝かせる。


「幼馴染で、婚約者で私にとって目標です」


リーンが真顔で答える。その横顔を見て、僕は顔が赤くなるのを感じていた。ほんとうに綺麗だと思う。


「ちょっと、ちょっと!」


突然大慌てで入ってくる女の人。


男の連れで、大けがをしていた女の人だった。




「ここの村の中庭どうしたの!あれ!凄いんだけど!」


女の人がびっくりした顔をして家の扉を開けて来る。


「だって、とんでもなく甘い桃が一杯成ってるし、あそこに咲いてる花!あれって、依頼が出てるくらい貴重な奴じゃない!それ以外にも、、」


大興奮したまま口が止まらなくなっている女性。


「あら、その庭は、、、」


リーンが返事をしようと口を開いた時、再び扉が激しく開かれる。




「おい!ダット!いるか!避難命令が出た!逃げるぞ!」


村の中年が大騒ぎしながら怒鳴り込んで来た。




「竜が、、竜が来たんだよ!」


「え?!」


女性の興奮が収まったのか。いや、びっくりした顔で、二人で目を合わせる男と女の人。


「まさか、、」


「追って来たの!?」


二人は、びっくりした顔をしたが、すぐに自分の武器を持って外へと走って行く。


「竜?気配は感じませんでしたが」


リーンが、小さく首をかしげる。


「だよね。僕も感じない」


僕は、不思議に思いながら立ち上がる。


「ちょっと行ってくる」


「いえ。私が行きます。エル様が出る事もないと思います」


リーンはそれだけ言うと、自分の剣を取っていた。






「おい、、やっぱりかよ」


「まだ、本調子じゃないよね、、」


「けど、やるしかないだろ」




二人の前に立っているのは、4メートルはある巨大な魔物。


額に大きな一本のツノが生えていて、口には火を蓄えている。


「やるわよ」


女性が、覚悟を決めたのか、槍を構えた時。




「火トカゲですか。たしかに、竜と勘違いされる事もあるかもしれませんね」


二人の後ろから、銀髪の女の子が現れる。


「リーンさん!何で来たんですかっ!下がってください!」


女性が叫ぶけど。


にっこりと笑うだけのリーン。




火トカゲは、口を開き。


その炎を見せつけて来る。


「ブレスが来る!逃げろっ!」


男の人が叫ぶが、リーンは逃げない。


炎が吐き出されて。


「竜聖剣。波覇両断ウォーターバズ


炎が一瞬で切り裂かれる。


「え?」


二人の声がかぶる。


「トカゲの分際で、竜に牙をむきますか」


リーンは小さく呟くと。


「竜聖剣。爆流ストリーム


リーンが突き出した剣から、魔力が渦を巻き、獲物を捕らえる。




魔力の渦の竜巻が通り過ぎた後には。


ズタズタに切り裂かれた火トカゲが、ゆっくりと倒れる。


「大丈夫ですか?」


剣を収めたリーンを、二人はただ茫然と見ているだけだった。






「本当に、お世話になりました」


「本当に、ありがとうね」


2か月後。二人は王都へと帰る事になった。


あの竜襲撃の事件から、何故か二人とも、リーンに対して、敬語になっていたりする。


あれから、必死に二人してリーンに竜聖剣を教えて欲しいとお願いしていたけど、リーンはいつも、あっさりと断っていた。




「竜聖剣は、神聖な物ですから」


返事は決まってそれだけで、それでもあきらめずに何度も頭を下げる二人に、仕方なく普通の剣技の稽古をつける事にしたみたいで。


それはそれは、ボコボコにしていた。


「まだ、居てもらっても良かったのですが」


「いえいえ!このアッシュ。まだまだ、修行が足りないと実感しました。もう一度自分で鍛え直して、再び、教えをいただきたいと思います」


「また、機会があれば、私にも、教えをください」


二人とも、本当に従順な弟子になってる。


「自分を鍛え直してから、再びここに来ようと思います。北へと行くために」


二人は顔を合わせて、二人で覚悟を決めたように頷いている。


男の人は、アッシュ。 女の人は、ラティアと名乗ってくれた。


冒険者として生活している二人は、北へと向かっている最中に、あの火トカゲと遭遇してしまって、あれだけの大けがを負ってしまったらしい。




それはそうと、あの火トカゲが強いのか、リーンに聞いて見たら。


「竜のペットよりも弱い、ただのトカゲよ」


との返事が返ってくるくらいだった。




二人には、そんな事はとても言えなかったけど。


必死に両手を振りながら、遠ざかっていく二人が見えなくなるまで、僕たちは見送るのだった。






「ラティアさんから、避妊の魔法を教えてもらったの。今夜、、どう?」


「いやいや、だから、まだ、僕たちは早いって!両親もいるし!兄もいるしっ!」


「ご両親、時々仲良くしてるじゃない。私たちが仲良くしても、何も言わないと思うけど?」


「いやだからっ!この家狭いしっ!って違うっ!ま、まだダメ!もうちょっと待ってっ!」


冒険者の二人が残して行ったものは、あまりにも大きかった。




それにしても、、、、両親が仲が良いのはいいんだけど、、弟か、妹が出来たり、、しないよね、、、。

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