第4話竜の里
竜に咥えられ。
僕は山の頂上と言ってもいい広場に降ろされてしまう。
後ろに超巨大な竜。
「な、、僕、おいしくないよ、、」
思わずそんな事を言ってしまう。
ああ、、怖い、、漏らしそう、、
「ねぇ、お父さん、その子、誰?」
突然、可愛い声が聞こえる。
その声の方を見ると。
すっごく可愛い子がこちらを見ていた。
ミーアよりもかわいいかも知れない。銀髪の髪は、光を反射してまばゆいほどの光りを蓄えている。
目鼻立ちは、見た事も無いほど整っている。
髪と一緒の銀色の目が、少し吊り上がり気味になっていて、気の強さを表していた。
都会に行けば、こんな子にも会えるのかな、と思いながら、ぼーっとその子を見ていた。
「何よ、私に何かついてるの?何か言いなさいよ」
少女が腰に手を当てて、こちらを睨みつける。
その顔すら可愛いと感じてしまう。
「かわいい、、、」
「なっ!」
思わず呟いた僕の声に、顔を真っ赤にする少女。
吊り上がった目が、一瞬で下がり気が抜けたような顔になる。
その破壊力は凄まじく。僕は顔から火が出たようだった。
「いや、、さらってきた」
後ろの竜が、そのやりとりを見終えた後で、小さく呟く。
ふと見ると、すごく優しい目をしているのが見えた。
少女と、僕の頭に ? と大きく出てしまう。
「あいつは、お礼を言う暇もなく、さっさと別の場所に行ってしまったからな。だが、何もしないのは竜の威厳に関わる」
竜が、ゆっくりと小さくなる。
銀色の長い髪の青年が現れる。
「竜の長、ガルドウルムだ。その子は、私の娘で、リーンネイトと言う。竜の年で言えば、君と同じくらいの年齢だ。だが、後数年で、子を産む事も出来るぞ」
「パパ!」
銀髪の少女が少し顔を赤らめたまま青年を睨むが。
そんな少女の視線を受け流し、青年は僕に膝をつく。
「後継者様。この命、助けてもらった恩義として、貴方を竜の里へと連れて来た事、お許しいただきたい。しかし、これは、私のけじめでもあるのです。おごり、慢心し、とんでもない失態を犯した私自身の。そして、あの方への私なりの恩返しなのです」
ずっと頭を下げる青年に。
僕はなんて返事をしていいか分からず、ただ佇んでいた。
そして、5年の月日が経った。
「エル!エル!こっちに美味しい実があるよ!」
「だから、そんなに急がないで!リーンほど早く走れないんだから!」
「えー。嘘!私より断然早いじゃない!」
リーンこと、リーンネイトは、銀龍だ。今は人間の姿でいるけど、銀色の髪と、穏やかな銀色の瞳。
多分、100人いたら、100人振り返るほどの美人だ。
人懐っこい表情が、美人の中に可愛さを盛り込み、さらに可愛くなっている。
「けど、、早いね、、もう明日で終わりかぁ、、、」
寂しそうに大木の前で立ち止まるリーン。
そう。明日。明日、最後の試練を受ける事になっている。
この5年間。ここ、竜の里で僕は読み書き、魔術、算術。剣術。全てを教えてもらった。
ただ、魔術だけはまったく使えなかったけど。
「枝術を持っている者は、魔術が使えないというのは本当だったのか」
竜の長が、本当に驚いた顔をしていたのが印象的だった。
ただ、ガルドウルムはいっぱいいろいろな物をくれたし、ここに来て、いろいろな物を得る事が出来たと思っている。
「私ね、、、」
竜の実とも言われている、竜の主食とも言える木の実をつける大木の下で。
リーンは、僕の顔を見あげる。
5年間で、僕の身長は一気に伸びた。
180㎝を超えるまでに。
リーンは、人型だと、160㎝くらいだけど、まあ、竜になると5メートルを超える。
「エルに会えて良かったと思ってる」
満面の笑顔でこちらを見るリーン。
「うん。僕もだよ」
そんな彼女が可愛くて、思わず顔が赤くなってしまう。
思えば、5年間、リーンと常に一緒にいた記憶しかない。
小さい頃は、一緒に寝てたくらいだし。
多分、、13歳近くまで。
ミーアよりも、ずっとリーンの方が幼馴染といっていいくらいだった。
けど、人と竜。
交わる事は無いと思う。
「ありがとうね。リーン」
僕は、笑いながら返事をしたのだった。
「これが、、最終試練だ」
竜の長と言う、ガルムは、ゆっくりとその剣を振り上げる。
僕はゆっくりと枝を自分の身体の傍に引き寄せ、構えを取る。
「いくぞ」
ガルムの目が光る。
「竜聖剣!
振り下ろされた剣を中心に、魔力が暴れるように渦を巻いて襲い掛かって来る。
僕は、冷静に。その魔力を全て認識して。
「神竜剣。
その魔力の渦全てを掬い取るように流れに逆らわずに枝を動かす。
「神竜剣。
枝で掬ったその魔力全てを解放する。
ガルムに向かって。
「
思わず竜が使える最強の魔力障壁を展開するも。
「神竜剣。
枝を突き出す。
枝が、竜盾を突き。
綺麗な音とともに、竜盾が弾け飛ぶ。
「くそぉぉぉぉ!」
竜の長とは思えない悪態をついたまま。
ガルムは魔力の渦に呑まれて行った。
「問答無用で、何も言う事も無く、合格だ」
ボロボロの姿のまま、ガルムが笑う。
僕は、自分の枝をそっと、彼に触れさせる。
「枝術。癒しの水」
原始の木は、壊れない。
どんな事をしても壊れない。そして、、枝術でその水を与えた者の傷を完全に癒してくれる。
一滴の水がガルムに落ちたと同時に、ガルムが受けた全ての傷が完全に消えていた。
「流石、世界樹。いや、始まりの木というべきか」
ガルムが笑う。
「もう、教える事は無い。私の行える事は全て行った。良く、私のわがままに付き合ってくれた。エルには感謝する」
ガルムは、小さく頭を下げる。
「いえ。多分、教えてくれなかったら。僕はあの村で、何もできずに泣いてました。本当にありがとうございました。けど、これで、さようならになるんですね」
僕は寂しさのあまり、ガルムに手を差し伸べる。
ガルムはそんな僕の手を引くと、抱きしめてくれた。
「お前は、私の息子と思っている。5年間。竜にしてみれば、一瞬の事だが、濃い日々だった。ありがとう」
ガルムはそれだけ言うと。
「そなたの村まで送らせよう。また会える事を」
ふと顔を上げると、ガルムは、泣いていた。
僕も、、目が潤むのを押さえられなかった。
私。竜の長でもある私は、見送りに出ていた。
「贈り物も、喜んでもらえるといいのだが」
竜の里とも呼べる場所から、一匹の竜が飛び立っていく。
エルを生まれた村へと送るために。
その後ろ姿を見続けていたガルムは、ふと顔を緩める。
「いや、あれは、贈り物ではなく、自分の意思だったな」
朝から姿が見えないと思っていたが。
銀色の竜がもう一匹。
竜の里から飛び立って行くのを、微笑んで見送るのだった。
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