第3話枝(えだ)術

「魔物が出たぞっ!」


突然現れたイノシシの魔物に、畑が荒らされていた。




目の前で野菜を食い荒らされているのに、村人は何も出来ない。


「任せて!」


突然、シャイが走って来て、木の刀で打ち据える。


一撃で、目を回して崩れ落ちるイノシシ。




「大丈夫?」


ミーアも走って来て、イノシシを倒した時にころんで出来た傷を見つけて、慌てて回復魔法をかけるミーア。




「さすが、『聖賢』様だな」


「聖女様も、本当に献身的で」


村人たちが、そんな二人を微笑ましく見ている。




僕は、そんな二人を見ながら必死に崩された畑を耕し直す。


「使えないなら、しっかり体を動かしてくれないとな」


畑の持ち主にそんな事を言われて、僕はくやしさのあまり、クワの柄を握りしめるのだった。






「学校に行こうと思う」


シャイが微笑みながら、話しかけて来る。


僕は、シャイの顔も見ず、その話を聞いていた。




「王都に、冒険者学校があるらしくて、そこで学べたら、僕の力も使えるようになると思うんだ」


シャイは笑っている。


そりゃ、そうだ。


彼は、王都の学校から推薦状をもらっているのだから。


「私も、ついて行きます!」


真剣な顔で、シャイを見ているミーア。


「そう、、僕は、仕事があるから、、」


幼馴染を取られてしまった気持ちがこみあげてきて、僕は、そのまま走って逃げだしていた。




「なんでだよ、、」


僕は、シャイアの像の前に来ていた。


悔しかった。


僕が英雄になるはずだったのに。


ミーアと仲良く冒険するはずだったのに。




あふれ出る涙で、前が見えなくなる。


「僕だって、英雄になるはずだったんだ」


泣きながら、シャイアの像に触れた時。




ふわりと何かが降りて来た。


『よぉ。後継者』


降りて来た男がにっこりと笑う。


凄く眼付も悪いし、どう見ても盗賊か、野党といった風貌の男だった。




『後継者。俺のとっておき、枝えだ術を渡してやるよ。上手く使え』


男が笑う。




枝えだ術? 枝を自由に使う技術?


それだけしかない説明に、混乱してしまう。


庭師にでもなるかな、、、そんな事を思っていると。




『お前は、木だ。そして、世界も木だ。その事を覚えておくといい』


男はそれだけ言うと、木刀を肩に担ぐ。




『腐るなよ。木は、全ての始まりで、終りだ。まぁ、腐っても次が生えるのが木だがな』


それだけ言うと、男は消えて行く。




男が消えた時、頭に一つの言葉が聞こえて来る。


『始まりの枝を獲得しました』






「始まりの枝?」


僕が呟くと、僕の手に、枝が現れていた。


キラキラと輝くその枝は、神秘的でもある。


『枝えだ術を利用可能です。始祖の木 OR 終末の木』




終末の木とか、なんか恐ろしすぎる。


僕は、始祖の木を選ぶ。


『始まりの木 から、始祖の木 へ。始祖の枝を手にいれました』




僕は、始祖の枝を振ってみる。


何も起きない。


「なんだよ」


そう言いながら、始祖の枝を地面に打ち付けた時。


地面に突き刺さった。


「え」


枝には、一切傷がついていない。


思わず枝をまじまじと見直すと。


『枝えだ術 枝確認。 始祖の木 絶対破壊不可。』




これって、、、絶対折れない、、枝?


枝だから、、ちゃんと、枝葉もあるし、、








僕は、ちょっと村の大木の方へと歩いて行く。


少し、枝を打ち付けて見る。


木に傷がつくのに、枝は折れない。


「これ、、もしかして強いんじゃ、、」


僕は手元の枝を見つめていたのだった。




「おはよう」


僕が一生懸命畑を耕していると、ミーアが声をかけてくる。


「ああ、、、」


久しぶりに幼馴染が声をかけてくれたのに、まともに彼女の目を見る事も出来ない。




「えっとね、、、王都の学校に行く日が決まったんだ、、」


その言葉に、思わず手を止めてしまう。


ミーアの顔を見ると、、


「だからね、、ちょっと挨拶しとこうかなっと思って」


とっても笑顔だった。


「だって、一応同じ年だし」


まったく僕の事なんか考えていない彼女は、そのまま後ろを振り返り。


もう一人いた男の子に手を振っていた。


ほんとうに嬉しそうに。




「ミーア!明日出発なんだから、あまりゆっくり挨拶に回る暇はないぞ!」


シャイが、笑いながらミーアに声をかけている。


「そうか、、聖女さまと、聖賢様は明日から学校ですか」


近くの大人が、しみじみと呟いているのが耳に入って。


僕は、自分のクワを力いっぱい振り下ろしていた。




分かってる。


枝召喚なんて、外れスキルで、何が出来る訳もないし。


シャイなんて、聖剣まで呼び出せるようになって、ますます、英雄シャイアに近づいている。


「エル君は、、、いや、、聞かないようにしようか」


一緒に畑を耕していた、隣のおじさんが気を使ってくれるのを感じながら。


僕は下を向いたまま。 顔を上げる事は出来なかった。






「「じゃああ、、行ってきまーす!」」


次の日。


二人はあっさりと王都へ向けて歩き出して行った。


「エル?送りの挨拶は行かなくていいの?ミーアちゃん行っちゃうわよ」


お母さんに声をかけられるも、僕は部屋の中でうずくまっていた。


「まあ、離れたくないのは、分かるけど、挨拶は大事よ」


そんな事は分かっている。




僕はふと自分の窓を開けて、村の出口を見る。


遠くに見える二人が、手を繋いでいるようにも見える。




まああ、、二人は仲良かったし。


けど、、僕も、、英雄になりたかったんだ。。。


僕は、部屋の中で、、ただうずくまっていたのだった。




けど、、運命は、僕の思いを。。。蹴散らしてくれた。










「なんだ!あれは!」


「竜? なんで竜が!?」


二人が旅立って3日後。


普通にいつも通り畑仕事をしていた時。


村が大騒ぎになっていた。


空に巨大な竜が飛んでいた。


ただ、飛んでいるだけなんだけど。


「何も起きない事を祈るしか」


「シャイ君もいないのに、、」


大人たちも何も出来ない。




そして、、竜は、、なぜか、、僕の前に、降り立って、、、、




襟首を咥えられた。






「エル!エル!」


お母さんの叫び声が聞こえる。


けど、、僕はただ竜に捕まって空を飛んでいたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る