第11話
「うっ、う゛うぅぅ~~~……。良かったですねー、グスッ」
「なんでお前が泣いてんだよ」
「すみません。なんか感動しちゃって……」
格好つけすぎの行動をした自覚のある深月としては「クッサ」とか「カッコつけちゃって」とか、茶化してくれた方がありがたいのだが、アイリスのような反応は深月の羞恥心に拍車をかける。
「に゛ゃ~~……」
ノエルまでも涙を流して顔を洗うような仕草を繰り返している。こいつホントに猫か?
場の空気に耐えきれなくなった深月は、パンパンと手を鳴らして空気を変えにかかった。
「ほらっ、さっさと次の作戦考えるぞ! 宝玉以外の方法で魔道将軍に会うぞ」
もう一つ同じモノを手に入れる事ができればなにも問題ないのだが、
「もう一匹ぐらいドラゴン出ねーかなー」
「そんなに何匹も出てきたら人間なんてすぐに絶滅しちゃいますよ」
アイリスのつっこみももっともだと納得。
「?」
裾を引っ張っていたのはネル。
「アノ、私モ竜ト同ジ。Aランクノ上級モンスター」
「へぇ、そりゃすげーな。そんなに強いモンスターなのか」
そういえば、カルサアもネルを捕まえるのにかなりの金をかけて何人も凄腕の冒険者を雇ったって自慢していたような気がする。
「ダカラ、同ジグライノ宝玉ガアル。深月ノ為ニナルナラ私ハイイ。私ノ心ハ深月ニ救ワレタ」
「はぁ?」
ネルの言ったことを頭の中で整理すると、自分の体から宝玉を取り出せってことなのか。
深月は宝玉が具体的にどの程度の位置にあるのかは知らないが、手や足の先などではないことは予想がつく。
おそらくもっと体の中心に近い位置にあるのだろう。それこそ心臓のように身体の中心に。
たとえ魔法があったとしても元の世界のように医療技術が発達していないであろうこの世界で、そんな場所にあるモノを取り出せばどうなるか。
これが冗談で言っているのなら、軽く頭を叩いて「バカな事言うな」と説教してやるところなのだが、ネルの目を見てわかった。こいつは本気で口にしているのだと。
「ネル、お前ちょっと
ネルの身長(?)はサソリの部分を含めるとかなり大きく2メートル半ぐらい、そのため深月がネルの頭を抱えるにはネルにしゃがんでもらうしかないのだ。
何をされるのかわからず戸惑っているネルの頭に、抱え込むように両手を回して、
「――――――――アホかテメーわぁっっっっ!!!!」
本気の
深月マジギレである。
深月にも宝玉を失う原因である当事者の目の前で、気遣いの足りない会話をしたと反省するところもあったが、それでも今のネルの発言は許せなかった。
「なぁ、テメーボクのことバカだと思ってるだろ? そんなことしたらあのチビデブスのおっさんに
額から暖かい液体が流れて目に入りそうになる。本気のヘッドバッドで額が切れたのだろうが、そんなことに気付かないほど今の深月は頭にきていた。
「バカにしてんじゃねーぞっ!! テメーの所有者になった人間はもっと上等な人間だっ!! もう二度とさっきみたいな事は口にするな! 次に同じような事言ったらその口に電球突っ込んで叩き割って口きけないようにしてやるぞ!! ボクのモノになったからには二度とそんな事口にすんじゃねーぞ!! わかったかっ!?!?」
額と額をくっつけたまま、ぶっ飛ばすぞっ、といわんばかりに思いっ切り睨みつける。
電球なんて絶対ネルには伝わらないだろうが、何を言いたいかは伝わっているだろう。
「ウン、ワカッタっ!! 深月ノ言ウトオリニスル。ネルハ深月ノモノダ!」
なにがそんなに嬉しかったのか、幸せそうに笑うネル。
「たくっ、なに笑ってんだよ。こっちは真剣に怒って」
ネルの笑顔に毒気を抜かれ、はぁ~、と一つ大きなため息をついてネルから離れる。
深月の額の血に気がついたレーベが慌てて駆け寄ってくる。
「深月様っ、血がっ」
「ん? ああ、血ぃ出てるのか。ほっとけ、唾でもつけときゃ直る」
「では、失礼します」
当たり前のように深月の額を舐め出すレーベ。
温かいレーベの舌の感触が額を蹂躙する。
「待て待てっ、なにやってんの!? なんでボクを舐めてるっ」
先ほどネルに怒鳴った言葉よりもっと直接的な意味での舐めるな。
「? ですが先ほどツバをつければ直ると」
不思議そうに小首を傾げる動作にちょっぴりときめいたが、それとこれとはべつ。
「比喩だよ、比喩っ。マジで舐めなくてもいい、汚いだろ?」
「いえっ、むしろご褒美ではーーなんでもありません」
「よしっわかった! 今度からレーベは言いたい事を言う前に頭の中で十分考えてから発言しろ」
今度は頭の上に乗っかったノエルがなめたそうに舌を伸ばしてきたから胸に抱いてやる。
「それよりこれからどーすっかなー」
「それじゃあ、とりあえずギルドに戻りましょうか」「なんで今更ギルドなんかに行く必要なんてあるんだ?」
「忘れたんですか? お店のおじさんが言ってたじゃないですか、Aランクの冒険者になったら正規の手続きで謁見できる、って」
「ああ、そういやそんな事言ってたな。具体的にどの程度の事がしたらそのAランクになれるんだろ?」
「竜種を単独で討伐できるかどうか。これがいちおうの一般的なAランク冒険者の目安とされています」
この世界に来た日に一度だけ見た、あの地竜を思い出す。
10メートルはあろうかという大きな体、岩をも余裕でかみ砕けそうな鋭い牙、人など紙屑のようにちぎれるであろう鋭利な爪。
「そんなことができる人類がいてたまるかっ!」
「居ますよ! だからランクがあるんじゃないですか」
元の世界じゃボクシングヘビー級王者が100人いても不可能だ。
「まぁ、そんな人類が存在するかはさておきーー」
言葉を一度区切って、レーベの方を向く。
「レーベがいたらAランクぐらい余裕でなれんじゃね?」
「ぶっちゃけ実力的には余裕です」
それはそうだろう。
ちょっと天然くさいところのある、このマイファースト
「Fから始まって、F+、E、E+、Dと順にランクが上がっていくんですけど、F+からEのように文字が変わるランクアップは試験がギルドの方から課されます。ですから実力的には問題がなくてもある程度の時間は取られてしまうと思います」
「ま、それぐらいはしょうがないか。ルールを破るわけにもいかないしな。それよりも――――」
ちらりと檻からでたネルの方を見て、そっと目を逸らす。
「ギルドに行く前に服屋に行くぞ。流石に今のネルの格好じゃ外を歩かせれない」
今のネルは布の端から色々なモノが覗いて非常に危ない。
おへそやらピンクのポッチやら。
とてもじゃないが子供には見せれない。
「見ル……?」
深月の視線に気付いたネルが、チラリと服の裾をめくって恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「見ない!!」
純情深月君には刺激が強すぎる。
王城から出て、服屋に出向いた4人+1匹。
この世界はチュニックやローブ、レザーアーマーのようにソレらしい服も多いのだが、現代風なデザインの服もフツーに置いてある。
「ヨクワカラナイ。選ンデ?」
「ボクが選んで良いのか?」
深月も世間一般の男のように何時間も女の買い物につき合わされるのは勘弁願いたいが、だからといって女の子の服を選びたくない訳ではない。
どちらかというと可愛い女の子に自分の選んだ服を着てもらいという願望は強い方だ。
う~ん、キャミはネルのイメージと違うな。ニットやワンピースもネルにはあんまり似合わないだろうし、あっちのパーカーはどうよ?
あれこれ物色しながらネルが着た姿を想像する。
最終的に決めたのは、背中に厳ついサソリの刺繍が施された赤いスカジャンみたいな上着と黒のインナー。
「うわー……」
思わずそうこぼしたのはアイリス。
「なんだよ、ボクのファッションセンスになにか文句でもあるのか?」
「いいえー、なにもーー」
超棒読みの返事。
「深月、私コレ気ニイッタ」
「ほら、ネル本人も気に入ってるじゃねーか」
当の本人は深月の選んだ服を嬉しそうに胸に抱いている。
「しかしこうなるとプレートメイルを着ているアイリスが浮くな」
一番ファンタジーらしい格好をしているのに不思議だ。
異世界のはずなのに。
「ついでにアイリスの服も選んでやろうか?」
「いえ結構です。お気持ちだけ貰っておきます」
ばっさり切り捨てられた。残念。ライダースとか着て欲しかったのに、バイクじゃなくて馬だけど。
「しかしレーベさんの服装を見たときから思ってましたが、深月様の趣味ってどうかと思いますよ」
「ちょっと待てっ! 勘違いするなっ、アレはボクの趣味じゃない!! アレがギリギリだって事ぐらいボクにもわかる!」
裸学ランを積極的に
身に覚えない不名誉な誤解を解かなければ。
「深月様、こちらを買っていただけませんか?」
そんな中レーベが持ってきたのは犬が付けるような黒の革製首輪。
「却下。なんでお前はそう危ない方向に進んで行くの?」
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