第7話 蓮華、部活探すってよ。

「……このままじゃダメだ。」

休み時間、頭を抱えながら俺はそういった。

「どうしたの?ようやく自分の時間配分の甘さをかえりみる気になったの?」

「いや、今日に関しては不可抗力だって言ったじゃん…。」

あの後、俺たちは通学路を全力疾走してなんとかホームルームに間に合った。映子先生には白い目で見られたけど。桃香がくすくすと笑うと言葉を続ける。

「で?入学早々何がダメなのさ。まだ青春は始まったばかりだよぉ?」

「そういうことじゃなくて、今朝のことがあって考えたんだよ。私に何が必要か。」

「…その心は?」

「筋肉だよ!」

桃香は肩をすくめる。多分知り合って間もないのにバカだと思われてる。

「あの男の子…朔馬くんだっけ?に暴力はダメって言った人のセリフとは思えないね。」

「うっ……べ、別に暴力に使おうってわけじゃ…。」

「まあいいや、一応聞くけどどうしてそう思ったの?」

「あの時、私はあいつらに抵抗出来なかった…怖かったっていうのも、まぁあるけど…一番は純粋な馬力の違い。相手の方が力が強かったからなんだ。」

「だから筋肉が欲しいと?」

「そう、それにやっぱりああいう奴らは抵抗出来なさそうな線の細い子を狙うんだよ。だから筋肉をつけて骨太になればその範疇から外れるはず。」

「…まぁ、筋は通ってるかな、一応。じゃあ方法は考えてる?」

「部活に入ろう!運動部!朔馬も!」

「…なんで俺まで。」

……ぶっちゃけ言うと今のは4割くらい口からでまかせである。本当は友達と一緒の部活に入って青春をしたいというのが真意である。これは過去の自分の更生と青春のやり直しを兼ねている。

「そういえば、ちょうど今日から仮入部期間だっけ?私、特に入りたいところないからチョイスは蓮華に任せるね〜。」

「任せな!絶対後悔させないから!朔馬も!」

「だからなんで俺が入る前提なんだよ…。」


…………


放課後。俺はこそこそと教室から出ようとする朔馬に組み付き確保して一つめの部活に向かう。

「……俺、一言も入るって言ってないんだが…。」

「まあまあ、食わず嫌いってよくないよ?」

「…なあ百園、お前コイツの友達なんだろ?止めねぇの?」

「んにゃあ、友達なら付き合うのが道理かなって…それに、ここで君も付き合ってあげたら懐の広さをアピール出来るかもよ?」

「…イヤなやつだな、お前。」

「おーい、着いたぞ。」

そこは体育館の2階、卓球台がひしめき、各々がその台の上でピンポン玉を転がしている。

「…蓮華ちゃん。ここ卓球部だよ?」

「うん、知ってるよ?」

「卓球ってさ、手首のスナップが必要なのであって腕力鍛えるにはあまり意味ないと思うんだけど…。」

「いやさ、この前漫画で見たんだよね。手首の力を最大限使って放つパンチ!あれかっこよかったからさ!」

「やっぱり暴力じゃん…。」

「そもそも護身をしたいなら柔道部とか入るだろ…。」

「うち柔道部ないからなぁ…。」

「すんませーん。体験入部したいんですけど。」

二人は乗り気ではなかったがとりあえず声をかける。すると気の弱そうなメガネの少年が奥の方からやってきた。

「あー…た、体験入部ですか。3人ですね?」

「はい。」

「えっと…じゃあ、卓球はやったことありますか?」

「あー…ちょっとだけやったことあるっすね。」

「私も〜。」

「……ない。」

「あっ、わかりました。じゃあ、ついてきてください。」

そう言われて奥の空いてる卓球台に通される。俺たちは初心者ということで、基礎を教えてもらうことになった。


………


「…おらぁ!どりゃあ!」

「あの、力みすぎです…さっきから玉があらぬ方向に…。」

どうにもうまくいかない。ちゃんと手首を意識しているはずなのに。なんか中学の授業でやった時もこんなんだった気がする…それにひきかえ…。

「え〜い。」

「す、すごいっ…!3年のエースに1点も取らせずに勝っちゃうなんて…!!」

「いやあ、教え方がうまいからだよぉ〜。」

桃香は俺とほとんど同じなはずなのに少し教えただけで急成長を遂げた。そんな彼女を見て俺は唇を尖らせた。

「むぅ、俺だって…。」

「あ、焦らないでください。桃香さんはなんというか…異常ですし、それに…。」

俺を教えていた部員はちらりと朔馬の方を見る。朔馬はラケットを力任せに振ったせいでピンポン玉が一つ割れたためラケットを取り上げられて延々とルールの説明を受けていた。もっとも、まともに聞く気がないようで右から左だが。

「…あれと比べられるのはなぁ…。」

「あはは…なんというか、両極端ですね…。片や少し教えただけでエースを打ち負かし、片や練習とかそういう次元ではない…。」

「そうっすね…あ、もうこんな時間か。すんません、他にも回りたいのでそろそろ…。」

「あ、はい。気に入ってくれたら顧問の無漏先生か部長に入部届を提出してくださいね。」

「はい。その時はよろしくお願いしますね。」

俺たちはにこやかに卓球部を後にした。


………………………


そうして俺たちは体験入部期間の数日中、色々な部活に出向いたが、いまいち全員の琴線に触れるものはなく、最終日、ついに全ての部活を回り切ってしまった。夕日がさす渡り廊下で俺たちはたむろしていた。

「はぁ〜〜〜……俺…私たちって意外とわがままなのかな。」

「ふふ、そうかもねぇ。」

そう言いつつ桃香は俺にジュースを手渡した。

「どうしよっか?いっそ新しく作っちゃう?」

「にゃはは、私はそれでもいいけど3人じゃ絶対人数足りないよ?」

「だよねぇ…いや、分かってたけどさ。」

「もういいだろ…諦めろよ。そんで俺を解放しろ。」

「はぁ…そうだね。それがいい…二人とも、付き合わせちゃってごめんね。」

「お、おう…まさかそんな素直に謝られるとは…。」

残念だが仕方ない。ないものねだりをして二人を困らせるほど俺も幼稚じゃない。

「……本当に良かったの?部活入ったら入ったで友達出来ると思うけど…。」

「俺は3人3で楽しめる部活に入りたいんだよ。そりゃ俺一人だったらどっかしら入ってたけど…。」

「…やっぱり、わがままだね?」

「嫌いになった?」

「まさか。」

「…ふっ。」

「…あはは。」

俺と桃香は顔を合わせて笑った。ひとしきり笑った後、桃香は口を開いた。

「…じゃあ、私たちこれから同じ部活だね?」

「え?でも俺たち帰宅部…あ。」

くすくすと笑う桃香を見て俺と朔馬は苦笑いをした。

「…んなベタなネタを…。」

「くだらねぇ…。」

しらけた俺たちをよそに、桃香はしばらく一人で笑っていた。


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