ねこねこ日記「こくに 2024.5.7」
西しまこ
雨の日
雨の日はウッドデッキのおうちのソファで丸くなるって決めているんだ。きょうだい三匹で丸くなっていると、なんだかとっても気持ちいい。
雨の日は好きじゃない。
だって、冒険に出かけられないから。
身体が濡れるのも足がびちょびちょになるのも好きじゃない。
だけど、雨のあたらない場所にあるソファで丸まっているのはいい感じ。
雨のにおいがひげに伝わって、ぼくたちは昔の夢を見る。
くろとうさんがいて、かあさんがいて。
ぼくたちは小さな子ねこなんだ。
くろとうさんが、ごはんを食べる場所や安全に眠る場所を教えてくれる。ぼくたちきょうだいはいつもくろとうさんの後をついて歩いたんだ。このウッドデッキのおうちも、くろとうさんに教えてもらった。一番初めに通い始めたのはこくいちだけど、ぼくもみけも、ここが大好きになった。
ソファでうとうとしていたら、ガラス戸が開いた。
「こっくー? チュール食べる?」
食べる食べるー!
ぼくは目を輝かせて、しゅたっとニンゲンの前に行った。こくいちが、「あたしが先なのにっ!」て顔したけど、いいんだ。ぼくが一番なんだもん。みけはちゅーるを食べない。みけはぼくたちきょうだいの中では一番警戒心が強くて、いまだに人間の手から物が食べられないんだ。
ちゅーる、おいしい! もっともっと!
ぼくはぺろぺろと、あっという間に食べちゃった。すると、こくいちが現れて、今後はこくいちが食べる。
こくいちは食べ終わったあと、言った。
「あたし、ちゅーる、今日二つめなんだよ」
「え⁉」
「朝、一つもらったの。うふふふ」
「ずるいー!」
「ずるくないよ。あたし、早起きして来たんだもん!」
ずるいー! ぼくももう一つ! と思ったけど、ニンゲンは部屋の中に入ってしまった。
あーあ。……でも、まあいいか。
雨の日は眠い。
あたたかくてやさしい眠りが、ぼくたちを包み込む。
「あたし、ちょっと遊びに行ってくる! 小雨になったし」
こくいちは遊びに行った。でもぼくはもう少し、ここでみけと眠っていたいな。
みけとくっついて眠る。また幸せな夢が見たい。
少し寝たら、またガラス戸が開いた。
「チュール、食べる?」
食べる!
ぼくはぱっと起きて、ニンゲンをじっと見たんだ。金色の目で。
雨の日も捨てたもんじゃない、と僕は思った。
了
ねこねこ日記「こくに 2024.5.7」 西しまこ @nishi-shima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
tonariのへっぽこ実験録/@tonari0407
★63 エッセイ・ノンフィクション 連載中 152話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます